第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「…何?私、何かおかしいこと言った?」
私がそう尋ねると
「…俺もさ、姉ちゃんのこと言えないけど、姉ちゃんって本当に自分のこと嫌いだよね」
善逸はただでさえ下がり気味の眉尻をさらに下げながらそう言った。
「…うん…嫌い。…どうしようもなく…嫌い…」
弱い自分も。
悩む自分も。
素直じゃない自分も。
炎柱様を好きな自分も。
その気持ちが止められない自分も。
でも
自分を好きになることが出来ない自分も
堪らなく嫌いだ。
「…嫌い…なの…」
そう力なく言った私に
「俺は好きだよ」
その言葉に、テーブルに向けていた視線を善逸の方へと上げると、善逸は依然として私の目をじっと、真剣な表情で見ていた。
「姉ちゃんが自分を嫌いでも…俺は、姉ちゃんのことが好き。優しくて、落ち着いてて、でも気が抜けるとちょっと間抜けで、努力家で…。姉ちゃんからはいつも心が落ち着くような、そんな音がする。でもその反面、自分を毛嫌いしてるのがわかるような、心がきしむような苦しい音もする」
善逸はそう言いながら、一度私へと向けている視線を下げた。けれども、再び視線を上げ、私の顔をじっと見ると
「姉ちゃんがやっと過去の傷を乗り越えて、誰かを好きになれたって知って、俺すっごく安心したんだ。しかも、その相手がめっちゃ強くて頼りになるあの煉獄さん!しかもしかも、その煉獄さんも姉ちゃんのことが好きだなんて!姉ちゃんが幸せにしてもらえる!…って…そう……思ったんだ」
最初は嬉しそうな表情で話していた善逸だが、段々とその顔は悲しそうなそれに変わって行く。
「でも…蓋を開けてみれば姉ちゃんは煉獄さんとどうこうなるつもりがなくて、それどころか自分の気持ちを抑える方法を知りたがってる…なにそれ?納得いかないんだけど」
あまりにも悲しげなその表情に
「…善逸…ごめん……」
私は思わず善逸に謝ってしまう。