第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「まったく…気持ちは嬉しいよ?でも私はまだ、あの場所で学ぶことがたくさんあるの。それに、ここに私がいてもいいかどうかは、善逸が決められることじゃないでしょ?決めるのは胡蝶様や、このお屋敷に住んでる人たちでしょ?」
「…そうだけどさぁぁぁ」
善逸は私の示した答えが”否”だったことにがっくりと肩を落とした。
「もう…そんなあからさまに落ち込まないでよ。…っそんなことより!」
善逸は私の言葉に”そんなことってなにさ”と、若干ふてくされながら地面を見ていた視線を私の方へと上げた。
「この後時間ある!?甘味ごちそうするから、私の話聞いて!善逸にしか…話せないの!」
雛鶴さんまきをさん須磨さんには私のこの炎柱様への恋心を話せない。けれども善逸にはもうばれてしまっている。少なくとも善逸は私よりも恋愛経験が豊富(片思い経験といった方が正しい気もするが)であり、この自分のいかんともしがたい気持ちをきいてもらえる相手は善逸以外考えられない。
「…いいけど…多分俺じゃあなんの役にも立てないからね?」
「いい!聞いてもらえるだけで十分!さ!行こう!今すぐ行こう!」
そう言いながら私は善逸の身体の向きをグリンと180度変え
「美味しいお団子のある甘味屋に向け出発!」
「姉ちゃん相変わらず団子が好きだね」
善逸の背中をぐいぐいと押しながら蝶屋敷の門を出た。
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「え?じゃあ何?姉ちゃんは煉獄さんのことが好きで、煉獄さんも姉ちゃんのことが好きで、”これからお付き合いするの。でも初めての事だからどうしたらいいかわからないの。うふふ”…って話じゃなくて、どうやったら煉獄さんを好きな気持ちを抑えることが出来て、今後もただの上官と部下でいられるかを知りたい…ってそういうこと?」
先ほどまで美味しそうにお団子を頬張っていたはずの善逸が、眉間にそれはもう深い皺をよせ、まるで珍獣でも見るような目で私の事を見ている。
「まぁ…そんな感じ」