第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「……っ…」
こんな面倒くさい
素直じゃない
天邪鬼な私に
なんで?どうして?
炎柱様はそんな言葉を掛けてくれるの?
その言葉を、行動を、嬉しいと思ってしまう自分に依然として嫌悪感を抱きながら
……やっぱり……好き…
更に膨らんでいく炎柱様への好意を、私は持て余していた。
結局あの後、炎柱様に会いに来る約束をのこのこと交わしてしまった私は、鍛錬場を後にし、炎柱様と別れた。
別れる際も
”何かあったとしても今の俺では荒山を助けにいけない。こんなことを言ってしまうのは皆の手本であるべき俺が言うべきではないのだが、無理はせず、必ず帰って来て欲しい”
あの目に見つめられながらそんなことを言われてしまえば
”……はい”
まるで暗示にかかってしまったかのようにそう答えてしまっていた。
そんなやり取を思い出しながら蝶屋敷の玄関に手を掛けたと同時に、ふと慣れ親しんだ気配を外に感じることに気が付いた。
急いで扉を開き外を見ると、そこには私が想像していた通り
「…善逸」
眉尻をこれでもかというほど下げ、申し訳なさそうな顔でこちらを見ている、善逸の姿がそこにあった。
振り返り、扉を閉め善逸の方へとゆっくり近づいていき、正面で立ち止まる。そして私よりもすっかりと高くなったその顔を見上げた。
「…もしかして、この間私が言っちゃったこと気にしてる?」
そう尋ねると、善逸はコクリと小さく頷いた。
”裏切り者ぉ!”
動揺していたとは言え、私はあの日、善逸に酷いことを言ってしまった。本気でそんなことを言ったわけじゃないこと等、私の事を誰よりも理解してくれている善逸であればわかっているはずだ。それでも
「あんなこと言ってごめんね?…どうしたらいいかわからなくて…必死過ぎて…あんな言葉が出ちゃったの…本当にごめん」
口から吐いて出た言葉が、少しでも善逸の心を傷つけてしまったのであれば、私はきちんと謝りたかった。