第8章 響かせろ、もっと遠くまで
隻眼の瞳に見つめられ、私の心臓はどんどんとその鼓動を強め、思考能力は再び奪われていく。
「…あの…っ…」
私がもごもごと何も答えられずにいると
「お二人の事情は私にはあまりよく分かりませんが、これから鈴音さんに機能回復訓練を手伝ってもらうにあたって、毎回このような空気を作り出されてしまうと困ります。今日のうちに、お二人できちんと解決しておいてくださいね」
栗花落様を後ろに引き連れた胡蝶様が、鍛錬場の入り口の前でこちらを振り返りながらそう言った。
胡蝶様の至極当然な言葉に炎柱様は
「うむ!わかっている」
そう答えており
「……はい…」
今のこの状況が良くないことを私自身も十分に理解していたので、蚊の鳴くような小さな声でそう答えたのだった。
パタリ
胡蝶様の後に続いて歩いていた栗花落様が鍛錬場の扉を閉めると、私と同じように扉の方を向いていた炎柱様の顔がクルリと私の方へと向けられた。
「あんなことはもうしないと…心掛ける。だからもう俺を避けないで欲しい。そして出来ることなら、訓練以外の時も、俺に会いにきてはくれないだろうか?」
"無理です"
そう答えるべきだと頭ではわかっているのに
「…わかりました。…わかりましたから…その手を…離してください」
ずっと手を掴まれている恥ずかしさと、自分の中で確実に育ちつつある炎柱様への恋心が、それを許してはくれなかった。
「…嘘を吐くのは無しだ」
炎柱様はそう言いながら、ギュッと掴んでいた私の手からその手を離した。
「……はい…」
「歯切れの悪い返事だな!」
炎柱様はそう言った後、"はっ"と何かを思い出したようなそぶりを見せ、私の顔に向けていた視線を下げた。
「足の具合はどうだ?先程の動きを見れば、それほど影響はなさそうにも見えたが」
その言葉と、炎柱様の視線を辿った先が、私が先の任務で強打した場所であることに気づいた私は
「まだ色は変ですが、痛みもほとんどないし、動きにも問題ありません」
ぶつけた部分をポンポンと軽く叩きながらそう答えた。