第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「そうか。それは良かった!改めて、俺の機能回復訓練の手助けをすることを決めてくれたことに礼を言いたい。ありがとう」
そう言って炎柱様は、私に向け丁寧に頭を下げた。そんな炎柱様の行動に
「っそんな!私は…私がそうしたいと思ったから…そうするだけで…お礼も!そんな風に言われるほどのことじゃありません!だから頭を…上げてください!」
私は大慌てで顔を上げてもらえるようにお願いした。私のお願いを聞いてくれたのかは定かではないが、炎柱様がゆっくりと顔を上げ、顔を上げてもらおうとそばに寄っていた私と近い距離で目と目が合った。
「……」
「…っ…」
そのままどちらも視線を外すことなく、しばらく見つめ合う。
…そらしたいのに…そらせない
そんなことを思いながら、私が自分でもどうしようもない自分自身に困惑していると、炎柱様がフッと目の力を抜き
「…好いた相手には、あまり情けない姿を見せたくはないのだがな」
そう言いながら、力の抜けた目から更に力が抜け、炎柱様の吊り目がちな目が僅かに下がった。
そんな様子に、私はたまらず
「…っそんなことは…ありません。自分の現状を見極め、それと向き合う強さのある炎柱様は、とてもすてき…」
"素敵な方です''
無意識にそんなことを口走りそうになっていた私は、唇の上下をギュッとくっつけ、それ以上は決して言うまいと固く口を閉じた。けれども、そこまで口走っていたら、全て言ってしまったのとほとんど変わりがなく
「…何でしょう?」
ニコニコと、嬉しそうに私の顔を覗き込む炎柱様に、冷たい口調でそう言ってしまった。私のそんな行動にはもうすっかり慣れてしまっているのか
「いいや…なんでもない!」
炎柱様は楽しげにそう言った。けれどもその後、フッと真剣な表情になり
「荒山」
真剣な声色で私の名を呼んだ。