第8章 響かせろ、もっと遠くまで
そんな私の様子を、炎柱様は珍しく驚いた表情で見ていた。
その表情に、はたと我に帰った私は
…っ…私ってば…何を…!
慌てて炎柱様の手に添えていた自分の手を引っ込めようとした。けれども
パシリ
「…っ!」
その手を炎柱様に掴み返されてしまい
「ありがとう!荒山がそう言ってくれるとは…俺はとても嬉しい!何やら力が湧いてきた!」
キラキラとした笑顔を向けられる。
その笑顔に
「…っ…」
私の胸は
ドキッ
と大きく高鳴った。
そんなことを言うつもりも、するつもりもなかったというのに、人間というのは、女という生き物は
"好きな人の役に立ちたい"
そう思ってしまうものなのだろう。
…っ…私ったら…何自分から炎柱様と距離を詰めるようなことを言っちゃってるわけ…!
そう思った時には当然手遅れなわけで
「よし!荒山が俺のためにそう言ってくれたんだ!頑張るしかあるまい!」
炎柱様はそう言って私に微笑みかけてくれた。
自分が発した言葉で炎柱様が笑ってくれたんだと思うと、何だか胸がギュッと切なく、そして甘く締め付けられた。私の手を掴む炎柱様の手の温もりも、なんだか心地よくて、離して欲しいと思う一方で、もっとこうしていたいと思ってしまう自分がいた。
けれども
「あらあら。やはりお二人は仲がよろしいのですね!今日はもう訓練は終わりのですので、お邪魔虫の私とカナヲは失礼させていただきます」
そんな胡蝶様の言葉に
「…え!…っ…あの…そんなんじゃ…っ…」
私は再び、炎柱様を好きだと思う恋心に思考を奪われてしまっていたことに気がつき、今度こそ炎柱様の手を振りとこうと、掴まれている腕をブンブン振った。それでも
「…っ…離してください!」
ちっとも離れていく様子のない炎柱様の手を、なんとか離そうと私がそう大きめの声で言うと
「離してもいい。だが、離した後、この場を去らず、俺と話をすると約束してくれるか?」
炎柱様は私の目をまっすぐと見据えそう言った。