第8章 響かせろ、もっと遠くまで
構えを解き
ふぅぅぅぅ
私が大きく息を吐くその一方で
はぁ…はぁ…はぁ…
炎柱様の乱れた息はなかなか整わず、肩を上下させ苦しそうな呼吸を繰り返していた。
胡蝶様がそんな炎柱様へと近づこうとしていくと、炎柱様は
「大丈夫だ」
そう言って、胡蝶様に左手のひらを向け、自分の方へと来ることを暗に拒んだ。その炎柱様の様子に、胡蝶様は眉の両端を下げ、困ったような表情をしながら、炎柱様の方へ向かおうとしていた足をピタリりと止めた。
炎柱様は先ほどの私がしたのと同じように
ふぅぅぅぅ
大きく息を吐いた後、パッと私の方に顔を向け
「……やはり荒山の動きは速いな」
いつもの、口角をほんのり上げた表情でそう言った。表情も、口調も、一見するといつもの炎柱様なのだが
ぎりっ
その手は音を立てながら木刀を強く握りしめており、その様子から、炎柱様が、自分の身体が思う通りに動かないことに悔しさを感じていることが痛々しいほどに伝わってきた。
「…これでも一応…音柱である天元さんの…継子ですから」
なんと答えていいかわからず、私は曖昧な表情を浮かべ、そう言うことしか出来なかった。
きっと、怪我を負う前の炎柱様であれば、私と打ち合いをしても、息の一つも乱れなかったんだろうな。…身体が思う通りに動いてくれないなんて…きっとものすごく悔しくて…苦しいに決まってる…。…私が……炎柱様の力になってあげたい…。
「…っ炎柱様!」
恥ずかしいとか、どうしていいかわからないとか、そんな自分のくだらない気持ちなんて一気にどうでもよくなってしまい、私は炎柱様に駆け寄った。
そのまま炎柱様の顔をじっと見上げ
「…私、時間がある時は…可能な限り炎柱様の機能回復訓練のお手伝いをするためにここに来ます!天元さんもきっと、炎柱様と訓練をすることを言えば、行ってこいって言ってくれるはずです!だから…ね?一緒に頑張りましょう?私、出来る事があれば何でもしますから…」
そう言いながら自然と、炎柱様の木刀を強く握りしめている手に、自らの手を重ねていた。