第8章 響かせろ、もっと遠くまで
炎柱様は私と視線がパチリと合うと
「自分の身体のことは自分が一番よくわかっている。どうあがいても怪我をする以前の力が取り戻せないのであれば、今後俺以上に強くなる可能性を秘めた人材を育てていくことが、鬼殺隊にとって最もいい選択だと俺は判断した。…だから、そんな悲しげな顔をしないでくれ」
…悲しげな顔?
自分がそんな表情をしている自覚がなく、炎柱様の言葉に困惑している間に、炎柱様のまだ包帯の取れていない左手が私の顔の近くまでスッと伸びてきたかと思うと
「…っ!!!」
私の右頬に優しく触れた。
かぁぁぁっと頬が、耳が、急激に熱くなるのを感じ、驚きと恥ずかしさで声も発することも、もちろん身動きを取ることも出来ないまま、私の目をじっと優しげな目で見ている炎柱様の顔を見返すことしか出来ずにいた。
「柱として最前線で戦うことが出来ずとも、俺にはまだ出来ることがある!そのことが俺は嬉しい!そして、俺がそうなるための手助けを荒山がしてくれることも、同じように嬉しいと思っている!」
そう言いながら私に向けられた視線は、以前と違って片方だけ。それでもその視線は熱く、確固たる意志を感じ
…両方の目でこうして見つめられたら…もっとドキドキさせられちゃうのかな
冷静さを取り戻したはずの私の頭は、あっという間に熱に浮かされてしまい、そんなことを考えていた。図らずもそうして見つめあっていると
コホン
わざとらしい咳払いが聞こえ
…っ私ったら…何を考えて…それに…胡蝶様の前で…何をこんな…!!!
ようやく我に返った私は、ざっと後ろに飛びのき、触れられていた頬を自分の手で押さえ
「…っ…許可もなく…女性の顔に触れたりするのは…よくないと思います!」
半ば怒鳴るようにそう言ってしまった。炎柱様は私のそんな様子を全く気にする様子もなく、腕を組み
「君は相変わらず素直じゃないのだな。だがそこが良い!見ていて飽きない!」
そう言って笑った。そんな私と炎柱様の様子を見ていた胡蝶様の
「お二人とも、とーっても仲がよろしいんですね」
わざとらしく、なおかつ何やら楽しげに発せられた言葉に
「よくありません!」「そうだろう!」
私と炎柱様の、正反対の意味を持った答えが重なり合った。