第8章 響かせろ、もっと遠くまで
炎柱様は2、3歩後ろに下がり
「それはすまない!つい熱くなってしまった」
そう言って、全くもって悪いと思っていなさそうな様子で胡蝶様に謝罪を述べた。
「構いません。ですが是非、その位の距離感でお話ししてもらえると助かります」
「承知した!」
「それで、本題の機能回復訓練の話に入ります。荒山さんにもきちんと聞いてもらう必要があるので、ここへ来てください」
そう言って胡蝶様が示したのは、炎柱様の隣だった。私はその指示に従い、炎柱様の隣へ移動し胡蝶様へと視線を向ける。
「カナヲも、一緒に聞いてください」
胡蝶様は、そうして私たちがいる場所から少し離れた場所にいた栗花落様にも声をかけた。栗花落様は、静かな足取りでこちらまで来ると、栗花落様、炎柱様、私、の並び順になるように胡蝶様の前に立った。
「基本的には通常の機能回復訓練と同じです。違うことといえば、訓練をするのが普通の隊士でなく煉獄さんであるという点くらいです」
「うむ!」
「呼吸で出せる能力が半減してしまったからと言って、煉獄さんと比べてしまえばカナヲ、炭治郎君、善逸君、それから伊之助君の4人の力では煉獄さんの相手は難しいでしょう」
「そうか!」
「ですが、速さに関しては荒山さんは煉獄さんにも引けを取らない能力をお持ちです。ですのでカナヲを含めた4人には、基本的な訓練で、煉獄さんの現段階での力を把握することを手伝ってもらいます」
「成る程!」
「荒山さんには、煉獄さんと打ち合いをしてもらい、右目しか見えない状態で、刀がどう動いて見えるのか、両目で見ていたころとの差を把握しつつ、その視界に慣れてもらう必要があります」
「そうか!」
「…使うのは日輪刀はではなく、木刀です。前線を退き、今後隊士の育成に専念するとはいえ、有事の際には必ず煉獄さんの力が必要となります。今のその煉獄さんの身体で、なにをどこまで出来、どこから出来ないのか、把握しておくことが今回の機能回復訓練においての最重要事項と言えます」
「うむ!」
「…っ」
炎柱様、いちいちうるさいな
なんて思っていた私だが、胡蝶様の口からさらりと告げられた
”炎柱様が前線を退き今後隊士の育成に専念する”
という事実に衝撃を受け、隣にいる炎柱様の方に慌てて顔を向けた。