第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「…っ…こ…こんにちは。炎柱様…その件につきましては…ご自分の心に聞いていただければ……」
そう自ら口走ったものの
…だめだめ。そんなこと言ったら、あの件についての話題を自分から振るのと一緒じゃない。機能回復訓練!私はそのためにここにいるの。こんな胡蝶様の背中に馬鹿みたいに隠れて痴態を晒すために来たんじゃない!そう。これは任務。お仕事。気持ちを切り替えるの…っ!
フッと自分の中で、素の自分と外行きの自分を切り替え、胡蝶様に寄せていた身体も離し、シャンと背筋を伸ばし炎柱の目をじっと見返し
「胡蝶様のご依頼で、私も炎柱様の機能回復訓練をお手伝いさせてもらうことになりました。少しでも炎柱様のお役に立てるように頑張りますので何でも言ってください」
淡々とした口調でそう言った。
そんな私の様子を炎柱様はきょとんとした様子で見ており、胡蝶様は肩をほんの少し震わせながら
「…その態度は…ちょっと…無理が…あるのでは…ないでしょうか…」
懸命に笑いを堪えているのか、言葉を途切れさせながらそう言った。
「…っそんなことはありません!さぁ。時間がもったいないです。機能回復訓練、始めましょう!」
そう言って無理矢理会話を切り上げようとする私に
「むぅ…」
炎柱様はそう不満げな顔をしながら言った。
「仕方ない。訓練を終えたら話をしよう。では胡蝶!荒山と取り組む訓練はなんだ?君の継子とやった、鬼ごっこか?もしくはお茶をかけあう反射訓練か?」
炎柱様は先程までの様子とは一変し、早く訓練をしたいと言わんばかりに胡蝶様へと詰め寄っている。
「…煉獄さん。距離感がおかしいようなので少し離れてもらってもいいでしょうか?」
先程までよりもほんの僅かに目を細めそう言った胡蝶様に
そうです!そうなんです!私もそれがずっと、ずっと、ずーっと言いたかったんです!流石、同じ柱の胡蝶様!
心の中で激しく同意してしまった。