第8章 響かせろ、もっと遠くまで
炎柱様と胡蝶様の間で交わされるそんな会話を聞きながら
どう考えても貴方のせいなんですけど!?
この人記憶喪失か何かなわけ!?
私にあんなことしておいて
なに人ごとみたいなこと言ってるの!?
というか胡蝶様絶対わかってる。
色々わかった上で楽しんでる。
胡蝶様ってば酷い!
心の中でそう文句を言いつつも、どうにもまだ炎柱様の顔を見る決心は付かず、胡蝶様の背中に張り付き続けていた。
「そうか。それは困ったな」
炎柱様は全然困っていなさそうな口ぶりでそう言いながら
…っ気配が近づいてきてる…!
胡蝶様の背中に隠れる私の方へとズンズンと近づいてきた。
咄嗟に私は添えていただけの胡蝶様の羽織を握りしめ、私の顔を覗き込んでこようとする炎柱様の視線を避けるように
クルッ
胡蝶様の身体の向きを変えた。
「むっ!」
炎柱様はそんな私の行動にそう反応を示した後、再度私の顔を覗き込んで来ようとその身を近づけてきた。
クルッ
ひょいっ
クルッ
ひょい
そんなことを数回繰り返していると
「あのぉ。私は壁ではありませんので…いい加減にしてはもらえないでしょうか?」
我慢の限界を迎えたのか、はたまた笑いを堪えきれなくなったのか、胡蝶様が肩を小刻みに揺らしながらそう言った。
「…っ…すみません…でも…ちょっと色々…まだ整理ができてなくて…」
そうゴニョゴニョと言い訳を述べていると
パチリ
とうとう炎柱様と視線が合ってしまい
「荒山!久しいな!何度も要に文を持たせたが、その後、読まれた様子もなく君の鴉が返しに来ていたようだ。何故文を受け取ってくれなかったんだ?」
そう言ってグッと私に顔を近づけてきた。
…やだっ…近い…近いってば!
その距離感に、どうしてもこの間の口づけを思い出してしまい、自分の頬と耳に熱が集まるのを感じた。