第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「…もう!楽しまないでください!」
そう言ってちょっと口調を荒げる私に
「ふふっ。すみません」
そう言いながら笑った胡蝶様は、私が思っていたよりもずっと、可愛らしい方なのかもしれないと感じたのだった。
「調子はいかがでしょうか?」
「胡蝶か!悪くはない!だがやはりまだ感覚が掴めなくてな。頭の中で想像した動きと、実際にそれをしたときの差に戸惑っている」
「それは仕方のないことです。何せ肺が取り込める空気の量が、以前の半分程度まで減っています。この機能回復訓練は、そこのラインを見極める意味もありますので、私が良いと言うまでは続けてもらう必要があります」
「その話は散々聞いた!もう勝手に屋敷に戻ろうとは思っていない」
「そうですか。それは良かったです」
「うむ!ところで胡蝶、俺の目には君の背中に荒山がくっついているように見えるのだが幻だろうか?」
意味がないと分かりつつ、無駄だと解りつつ
"柱に対して失礼な態度を取ることなどあってはならない"
なんて思いはすっかりと何処かへと飛んでいってしまい
「幻ではありません。正真正銘本物の荒山さんです」
同じくらいの体格なのだから全く意味がないと理解しつつも、胡蝶様の背中にピッタリと張り付き、自分の視界に炎柱様が入らないよう顔を隠した。
「やはりそうか!流石荒山だ。姿は丸見えだが気配を断つのがとても上手い!だが俺は、なぜ荒山がそんな行動をとっているのかが理解できない。何かあったのだろうか?」
「…残念ながら、私にはどうして荒山さんがこのような行動を取っているのかさっぱりわかりません」