第8章 響かせろ、もっと遠くまで
…いや…でも…まさかねぇ。ないない。だって、柱が機能回復訓練に参加するなんて…聞いたことないし。それに胡蝶様、私が炎柱様のこと避けてたの知ってるし…それをわかった上で私に炎柱様の機能回復訓練を手伝えって言うはず…ないない。胡蝶様がそんな意地悪なことするはずない。そうよ。そうに決まってる。
そんなことを頭の中で一生懸命考えていると
「今日は任務がお休みと仰っていましたよね?早速で悪いんですが、この後お願いできるでしょうか?」
そう尋ねられる。
「…はい…予定は…特にないので…」
そう答えたものの、やはりどうしても一度頭に浮かんできてしまったその"予感"に対する不安が拭えず
「…ちなみに、その機能回復訓練のお相手って…どんな隊士の方なんでしょうか?」
私は恐る恐る胡蝶様にそう尋ねた。そんな私に対し、胡蝶様はにっこりと綺麗な笑みを浮かべ
「それはもちろん、炎柱の煉獄さんがお相手です」
人差し指を立て、さも当然のことのようにそう答えた。
一方私は、胡蝶様の口から紡がれた、最もそうじゃなかったらいい、そうだったら困る、と思っていた人の名に
…無理無理無理無理!
頭の中で大パニックに陥っていた。
あの口づけ事件以降、炎柱様から
"任務の合間の少しの時間で構わないから会いに来てほしい"
そう何度か連絡をもらっていた。もちろん行きますなんて言えるはずもなく
"任務と鍛錬で忙しいので不可能です"
そうお断りし続けた。
会いたいと思う自分も確かにいた。それでも、どんな顔であったらいいのかわからないし、そうしてしまえば、自分の"炎柱様を好き"と言う気持ちに歯止めが効かなくなってしまうような気がして怖かった。
…毒をわけてもらえないのは残念だけど…炎柱様の機能回復訓練を手伝うなんて…無理に決まってる。ここは潔く…諦めよう。
そう私が結論を導き出した時
「さぁ。それでは場所を移動しましょうか」
そう言って胡蝶様は腰掛けていた椅子から立ち上がった。
…お断りするなら、もう今しかない!