第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「どうぞお掛けになってください」
「ありがとうございます。失礼します」
私はそう言って、胡蝶様に座るようにと勧められた椅子に静かに腰かけた。
「そんなにかしこまらなくていいですよ。それで、私に聞きたいこととは何でしょう?」
首を傾げ、そのかわいらしい目で私のそれをじっと見つめてきた。
同性の私がこんなにもドキドキしちゃうんだから、男の人なんていちころだろうな。
そんな考えを頭をよぎったが、今日はそんなことを考えるためにわざわざ胡蝶様の貴重な時間を割いてもらったわけじゃない。
「あの…天元さんから、胡蝶様は変わった形の日輪刀を使っていると聞きました。それを、私に見せてはいただけないでしょうか?」
私がそう胡蝶様に尋ねると
「成る程。そういうことですか。なんとなく荒山さんが何を求めているのかがわかりました」
そう言いながら、診察用の机の横に置いてある胡蝶様の日輪刀へと手を伸ばしてくれた。
胡蝶様はそれを手に取り、日輪刀の全体を私に見せるように両手で持つと
「これが私の日輪刀です。お察しの通り、私は他の柱の方達より、あるいは階級が下の隊士の方達よりも筋力がありません。さらにこの日輪刀は、私に合わせて"突き"の動作に特化した作りになっているので、鬼の頸も切ることができません」
そう言いながら日輪刀を鞘から抜き、その刀身を私に見せてくれた。
…凄い。細くて…軽そう。それに…なにか仕掛けが…施されてるのかな?
そう思いながらじっと胡蝶様の日輪刀を観察していると
「切っ先から藤の毒が打ち込めるようになっています。だから私は、鬼の頸が切れなくとも、自分の作った藤の毒を使って、鬼を殺することが出来るんです」
どこか誇らしげにそう言った。そんな胡蝶様に
…凄い。身体の特性上どうしようもない部分を、自分の知識で補ってるんだ。
私は尊敬に近い感情を抱いていた。