第7章 溢れた想いの行先は
…そんなの…だめ。だって…きっと、炎柱様は私に助けられた恩みたいなものを感じてるだけで…その気持ちを好きと勘違いしてるに違いない…そうだよ。そうに決まってる。
そんな風に考えていると、先ほどまで感じていたドキドキがすーっと、あっという間に引いていった。
「…鈴音?大丈夫ぅ?どうしたのぉ?」
あれだけ騒いでいた私が急に真顔になり心配になったのか、和が私の顔を、首をものすごい角度に傾けながら覗き込んできた。そのまま倒れていってしまいそうな身体をクイッと戻してあげ
「…なんでもないよ。ちょっと、驚くことがあっただけ」
そう言って頭のてっぺんをカリカリと人差し指の先でかいてあげた。
「気持ちいいのぉ!」
気持ちよさにまんまと誤魔化された和は、すっかりと先程までの私の様子を伺うような雰囲気はなくなり、ビヨビヨと身体を上下させその気持ちよさを表現しているようだった。
「…さ、一応任務も終わったことだし、帰ろうか」
「うん!」
訳の分からない特別任務は終わった。今日はもう他の任務も言い渡されていない。
「よし!久々に、あのお店の天ぷらを食べに行こう!で、帰りにお団子買って、雛鶴さんまきをさん須磨さんとお茶会しよっと」
相手が雛鶴さんまきをさん須磨さんとは言え、先程の出来事を話すことは流石に出来ない(雛鶴さんとまきをさんはともかく、須磨さんはすぐさま天元さんに言ってしまいそうだし)。
…猫…いや、虎に齧られたと思って…今日の出来事は忘れよう。
そう考え、忘れようとしているのに
虎に齧られたら結構な怪我だよぉぉぉ!
どういうわけか、頭の中に突如として現れた小さな善逸がそんなことを言うもんだから
「……平気だもん」
ボソリとそう呟き
「ん?何か言ったぁ?」
「…ぅうん。なんでもないよ。さ、行こう」
いらない考えを頭から追い出すように左右に軽く頭を振り、私は目的の天ぷら屋さんのある街へと駆け出した。