第7章 溢れた想いの行先は
全速力で走り続け、動揺で乱れに乱れた呼吸では、正しい呼吸とはかけ離れているのは当然で
はぁ…はぁ…はぁ…
息切れを迎えた私は、走る速度を落とし、ゆっくりと立ち止まった。
膝に手をつき、呼吸を整えている間も思い出されるのは先ほどの炎柱様とのやり取り。
"これからも側にいて欲しい"
"俺と恋仲になってはもらえないだろうか"
"かわいい顔をしていたのでつい"
"俺も初めてだ安心するといい"
甘く優しい口説き文句に
ふにっ
感じたことのない、柔らかく甘やかな他人の唇の感触。
それらを思い出し、全力疾走したことからくる胸のドキドキとは全く違った、甘酸っぱい胸のドキドキが私の胸を支配していく。
「…っない!ありえない!っだめだめだめ…だめぇぇぇ!」
そんな自分を拒否するように、私は道の真ん中で頭をブンブンと左右に振りながらそう叫ぶ。
けれどもそんな行為は何の解決になるはずもなく
「…鈴音?どうしたのぉ?何かあったの?顔がりんごみたいに真っ赤なのぉ」
私の視界に入るように着地してきた和が、首を傾げながら私にそう尋ねてくる。
「…っあのね和!さっき…炎柱様に…」
"恋仲になろうと言われ口づけられた"
そう言おうとしたものの、言葉を止めた。
…和たちは…思いの外横のつながりが深い…私の知らない情報を知っていることも多いし、話が回るのも…早い気がする。となると…和に言うのは…得策じゃない。
自分1人では如何ともし難いこの気持ちを、今すぐ誰かに聞いて欲しかった。けれども、和を信用していないわけではないが、もし私が先ほどの炎柱様との出来事を和に話し、和が交流のある他の鴉、例えば天元さんの相棒である虹丸にうっかりと話してしまった日には、あっという間にこの話は天元さんに伝わり、最悪の場合たくさんの人に知られてしまう可能性もないとは言えない。