第7章 溢れた想いの行先は
…っいやいやいや違うから!そういう事じゃないから!この年で口付けを知らないってどんだけ無知だと思ってるわけ!?
「…知って…ます…けど…っ!」
心はとても雄弁なのに、実際に口から出てくる言葉は全くもってたいした内容ではない。
「よもや初めてか?それはすまない。だが俺も初めてだ!安心するといい!」
俺も初めてだ!安心するといい!
俺も初めてだ!安心するといい!
俺も初めてだ!安心するといい!
頭の中で何度も繰り返される炎柱様のその言葉に、私はようやく自分が何をされたのかを理解した。
…私の…初めての…口付けを…無断で…?
「…っ炎柱様の……助平ぇぇぇぇぇぇえ!!」
ガターンッ!
私は椅子を倒しながら立ち上がり、脱兎の如く病室を逃げ出した。
ドタドタと大きな足音を立てながら蝶屋敷の廊下を全速力で走っていると
ガラッ
私のことを心配してくれたのか、ひょっこりと顔だけを病室から出してきた善逸と目があった。
その顔は、明らかに赤く染まっており、もうそれだけで耳のいい善逸には先程の炎柱様と私のやり取りが、意図的か、非意図的かはわからないが、どちらにしろ聞こえてしまっていたことがはっきりとわかってしまった。
「…っ…やだやだぁ!…そんな顔で…私を見ないでぇ!善逸のばかぁぁあ」」
「…ごめぇぇぇん!姉ちゃん許してぇぇぇ!」
顔を赤くしながら半泣きの状態で私にそう言ってきた善逸の横を綺麗に通り過ぎ、私は自分が出せる最高速度で走り、蝶屋敷の門を出た。