第1章 始まりの雷鳴
誰も言葉を発することなく、刀身の様子が変化してくのを見つめる時間だけが流れた。切っ先まで変化するのを確認すると、
「…雷の呼吸とは…少し違うようじゃな」
じいちゃんのその呟きに
「ええ。近しいものを感じはしますが、私も見たことのない模様です」
鉄穴森さんもそう言った。
自分でも、最終選別に持って行ったじいちゃんに借りた刀とは違うと、確かに思った。
あの刀は、まさに”雷”って感じの稲妻模様だったけど…これは稲妻っていうよりも
「枝に細くしなった葉っぱが生えてるみたい。全然雷っぽくないじゃん」
隣でぼそりとそう呟いた善逸に
「…私もそう思う」
私も同意見だった。
雷じゃないというなら、いったいこの模様は何で、私の適正は何なのか。今すぐ教えてもらいたいところではあるが、たくさんの刀を打ってきたはずの鉄穴森さんが見たことないというのであれば、私にわかるはずもない。
どうしたものかと刀身の表を見たり裏を見たりしていると
「私はこういった経験は初めてですが、刀鍛冶仲間には今回のように、見たことのない模様や色が出てきたと言っていた者もおります。そう言った刀をもつ剣士は、後に基本の呼吸ではない、その派生の呼吸を扱うケースが多いと里で聞いたことがあります」
その言葉に私は、パッと鉄穴森さんの顔を見る。
「…派生の呼吸というのは…なんですか?」
私が鉄穴森さんにそう尋ねると、
「それはわしから説明しよう」
じいちゃんのその言葉に、私は顔をそちらへと向ける。
今まで雷の呼吸以外の話を詳しく聞いてきたことはなかったが、じいちゃんの説明によると、呼吸には雷を含めた5つの基本の呼吸法があり、必ずしも育手の元で教わった呼吸法がその使い手に適しているとは限らないそうだ。
「お前さんのそれは、恐らく雷から派生する何らかの呼吸にあたる可能性が高い」
「色見も、全体的な雰囲気も、雷の呼吸を扱う剣士のそれととてもよく似ていますので、私も同意見です」
「…雷の呼吸の…派生」
私は再びじっと自分の日輪刀を見つめた。