第7章 溢れた想いの行先は
炎柱様はほんの少し目を細め、5秒ほど押し黙った後
「好いた相手でもいるのか?」
私の目をじっと見据えながらそう言った。
「…違います」
…本当は炎柱様の事が好き。
そう言えたらどんなにいいか。
「俺では不満か?」
「…違います」
炎柱様と恋仲になれたらどんなに幸せか。
「顔を見せて欲しい」
「…嫌です」
顔を見られてしまったら、私のその気持ちがきっと炎柱様にバレてしまう。それをなんとか避けようと、私は顔を真下に向け、隠すようにしながらそう答えた。
そう、答えたのに。
グイッ
「…っ…やだ…!」
炎柱様の手が私の顎をグイッと掬い、顔を正面に向けさせられ、強引に目を合わせられてしまった。
パチリ
炎柱様と私の目が合った後
「…君は天邪鬼だな」
炎柱様は、優しげに目を細めた後そう言った。
「…っそんな事………!?」
戸惑い、視線を下げたほんの少しの間に、ふっと目の前が肌色で埋め尽くされ
ちぅ
温かく柔らかい感触が私の唇に押し付けらた。
それを自覚したときにはもう、視界は元通りになっており
え…?…今のって…?
ジッと私のことを見つめる炎柱様と再び目が合った。
「すまない。荒山があまりにもかわいい顔をしていたのでつい」
ポカンと固まる私に、炎柱様はまったく悪びれた様子を見せる事なくそう言った。
自分の下唇に右手の人差し指と中指で触れ、炎柱様が先程私に何をしたのかをよく考えてみる。
…えっと…炎柱様の唇が私の唇に触れて…
フニって…柔らかくって…
気持ちよかっ…じゃなくて…
え?なに?
唇と唇が触れるって
…それって…?
「…今…私に…何を…?」
炎柱様は私の左頬をその大きな右手のひらでスリスリと撫で
「口付けだ。…荒山は口付けも知らないのか?」
嬉しそうに目を細め、私を見つめながらそう言った。