第7章 溢れた想いの行先は
「荒山の字は綺麗だな」
「炎柱様ほどではありません…はい。書けました。ありがとうございます」
お借りした筆を返そうと、両手で筆を持ち差し出すと
「…っ…なんですか?」
その手を炎柱様に両手でギュッと掴まれてしまい、私の心は酷く動揺してしまう。
「最後に一つ聞いて欲しい」
炎柱様はそう言うと、私の目をジッと見つめ、私の両手を掴む力を更に強めた。
「…っ…なんでしょうか…」
動揺を悟られないよう普通に返したつもりだが、声が震えてしまい私の心は更に乱れた。
「荒山。俺は未だかつて、人の背に、ましてや女性の背に隠され庇われたことなど一度たりともない。その小さな背に庇われるのは…情けなくはあったが、それと同じ位、なにやら喜びのようなものも感じた。そして上弦ノ参と戦う君の姿は、まるで舞を舞っているように美しかった。俺はその姿に心奪われ、これからも側にいて欲しいと心よりそう思った」
「…っ!」
炎柱様の口から紡がれた、信じられない言葉達に私の身体はまるで石になってしまったかのように動かなくなってしまう。
…目を…そらしたいのに…そらせ…ない。
私の目を熱く見つめる炎柱様の目が、私の心に炎を灯したような気さえした。
炎柱様は私にその端正な顔をグッと近づけ、至近距離で私の目を射抜くように見つめ
「添い遂げるのであれば、父上のように心から好いた相手と共にと常々決めていた。手始めに俺と恋仲になってはもらえないだろうか?」
「…っ!」
ブワッと頬が熱くなり、炎柱様の口から発せられた"恋仲になろう"と言う言葉に、私の耳は、心は喜びで震えていた。
それでも、私の心に常にいる、冷め切った私が囁く。
身寄りもないくせに。
可愛げもないくせに。
美しくもないくせに。
そんな私が炎柱様と恋仲になれるの?
誰がそんなのを認めるというの?
心の奥底では
"そうなれたらどんなに幸せだろう"
そう思っているのに
「…ごめん…なさい…」
私の導き出した答えはそれだった。