第7章 溢れた想いの行先は
…なに…この報告書…出来てるじゃん。私の書く場所なんて…ないじゃん。
そう思い、じとーっと上官に向けるにしてはいささか態度のよろしくない(今までの言動を振り返るとそんなのは序の口のような気もするが)目線を向けてしまう。
「…これ、私が来る必要ありました?」
「ある!ここに直筆で署名をして欲しい!」
そう言って炎柱様が指差したのは、報告書の1番下の空白だった。
「…え?まさか…ここだけ?」
…ただ…署名をするだけ…?え…ここ…だけ…?
「そうだ!君の直筆の署名がどうしても必要なんだ!」
「……こんなの…呼び出してやるほどの事ではありませんよね?」
「そんな事はないぞ!」
炎柱様の声が先程よりも心なしか大きくなっているのは、嘘が苦手そうな炎柱様の真っ直ぐで正直な性格故なのだろう。
…呼び出しに応じなかった私が悪いし、ここは気づかなかったことにしよう。
そう結論づけた私は
「…すみませんが、筆をお借りしてもよろしいですか?」
「うむ!俺のでよければ使ってくれ」
炎柱様はそういうと、スッと腰掛けていたベッドから立ち上がり、ベッドの隣に設置してある小物入れと思われる小さめの引き出しから筆と墨がまだ残っている硯を取り出した。
墨の残った硯を見ると、療養中にも関わらず仕事をしていたんだろうなと言うことが伺い見え
こんな時くらい…ゆっくり休めたらいいのに
そう思わずにはいられなかった。
「すみません。ではお借りします」
炎柱様は筆に墨を適量つけた後、私の方にそれを差し出してくれた。差し出されたそれを、手が触れてしまわないように慎重に受け取り、部屋に備え付けてある小さめの机をお借りし、炎柱様の署名の隣に
荒山鈴音
必要とは全く思えない署名をした。