第7章 溢れた想いの行先は
震え出しそうな手を抑える為、私は自分の膝に置いてある左右の手をギュッと握り合う。
「まず初めに言わせてもらおう」
"君のせいで"
"君がもっと"
炎柱様がそんなことを言うようなお人柄じゃないことは理解しているつもりだ。
それでもそう思わずにはいられなかった。いや、いっそのこと"そう言われてしまった方が楽だ"と、私自身が思っているのかもしれない。抑えていたはずなのに、私の手は結局震えてしまっていた。
すっ
炎柱様の息遣いが聴こえ、その口から言葉が紡がれてくることがわかり、私は怖さを誤魔化すように下を向き、ギュッと目を瞑り、握り合わせている手の力を強めた。
「君のおかげで俺はこうして命を繋ぐことが出来た。心から礼を言わせてほしい。感謝している。いや、感謝してもしきれない」
「…え…?」
炎柱様の口から発せられた言葉は、私が想像していた、私を責める言葉たちとは相反するものだった。
思いもよらないその言葉に、俯き下を向いていた顔を炎柱様の方へと向けた。すると視界に飛び込んできたのは眉の端を下げ、優しい瞳で私を見つめる、初めて見る炎柱様の顔だった。
「…っ!」
甘くて、苦しくて、どうしようもない気持ちが私の胸をギュッと強く締め付ける。
…そんな優しい顔で…私をみないでよ…
「…どうして…そんな優しい言葉…かけてくれるんです?」
小さく呟いた言葉は炎柱様の耳には入らなかったようで
「む?なんだ?」
炎柱様は私の方にズイッと顔を近づけて来る。
優しい声を
優しい瞳を
私になんかに向けないで。
「…っどうしてそんな…っ優しい言葉を私なんかにかけてくれるんです!?」
私が半ば怒鳴るようにそう言ったのにも関わらず、炎柱様は少しも驚いた様子を見せることなく、依然として優しい瞳を私に向け続けている。
「…っ私は…炎柱様の剣士としての命を守れなかった!…自分はたいした怪我も…しなかったくせに!…っ…守れって…そう言われていたのに!…ちゃんと私を…責めてください!そんな…優しい言葉を…視線を…向けないで!!!」
…はぁはぁはぁ
興奮して、大声で捲し立て、柱である上官に向かって自分は一体何を言っているのか。何がしたいのか。
自分でもわからなかった。