第7章 溢れた想いの行先は
「…んな顔で俺を見んな!全部煉獄の呼び出しを無視してきたお前自身の責任だろ。お館様まで巻き込みやがって。少しは反省しろ!」
天元さんのその言葉に、私は目を見開き固まってしまう。
「まさかお前、この俺様が知らないとでも思ってたのか?俺のところにも何度も何度も煉獄の鴉が来てんだよ。だがこれは、お前と煉獄の問題だ。俺が口を挟む事じゃねぇ。だからお前が、自分で、何とかしてこい!」
そう言って天元さんは、目を細め、私をじっと見下ろしていた。
周りをこれだけ巻き込んで…これ以上…天元さんにも、お館様にも…迷惑はかけられない。
「……わかりました。炎柱様のところに…行ってきます。…天元さん、炎柱様の好物はご存じですか?」
「煉獄の好物?」
「はい」
天元さんは顎に手を当て、視線を天井の方に向け、炎柱様の好物を頭の中で思い浮かべているようだ。
「……芋」
「芋?」
「さつま芋」
「…さつま…芋?」
天元さんの口から告げられた炎柱様の意外な好物に
良いお家柄の割に…庶民的なものが好きなのね…ちょっと可愛いかも。
そう思ってしまった。けれどもその直後
…私ったら…何考えてるんだろう。
そんな風に思った自分がどうしようもなく嫌だと感じた。
須磨さんおすすめの和菓子屋さんに立ち寄り、さつまいもを使った日持ちする和菓子をいつくか、それと一緒に、療養中お世話になったお礼として小さくて可愛らしいお饅頭をたくさん、蝶屋敷で働くみんなのために購入し、私は蝶屋敷へと向かった。
それらが入った紙袋を片手に嫌だな嫌だなと思いながらのろのろと向かっていたはずなのに、気づくと私は蝶屋敷の門の前に立っていた。
「鈴音…入らないのぉ?」
私の左肩にとまっている和が、不思議そうな声でそう尋ねてくる。
「…入るよ…入るけどさぁ……」
入りたくないなぁ。
この期に及んでそんなことを考えている私の右肩に
バサバサッ
「ひゃっ!」
降り立ったのは
「杏寿郎様がお待ちだ。早く行け」
私の鴉ではなく
「…承知…しました」
炎柱様の鎹鴉だ(何故かやけに丁寧になってしまうのは、鴉から謎の威圧感を感じたからだろう)。