第7章 溢れた想いの行先は
こうして私は自分の日常を取り戻した。
と、思っていたのに。
「荒山、お前にお館様より特別任務だ」
「……」
その覚えのある言い方に、嫌な予感しかせず、聞こえないふりでもしてしまおうかと思った。
だんまりを決め込む私を全く気にしない様子の天元さんは
「蝶屋敷で療養中の煉獄と、今回の無限列車での任務の報告書を作成して来い」
お館様自らがご指示する必要などカケラも感じないような任務内容を私に告げた。
聞こえない振りをするはずだったのに
「…それ、本当にお館様からのご指示ですか?」
あまりのその内容に、私は思わずそう尋ねてしまう。
「んなもん俺が知るかよ。つぅか、身に覚えあんだろ?」
天元さんは面倒臭そうに頭をボリボリと掻きながら、私の方を見ることもなくそう言った。
「…だって…」
「だってもクソもあるか。いつまでもそんなしけた顔してると、縛り上げて無理矢理煉獄の病室に放り込むぞ」
「…っ…!」
ギロリと私を睨みつけながらそう言った天元さんは、いったいどこから出してきたのか紐を取り出し、両手に持ってピンとその紐を伸ばしていた。
不味い…この人は本気でやる。
逃げるという選択肢はもうどう頑張っても残っておらず、私はもう腹を括るしかなかった。
「…わかりました!行きます!行ってきます!」
半ばやけになりながらそう言う私を、天元さんは"しょうがねぇ奴"と言わんばかりの顔で見ている。
…そんな目で見なくっても…。
そうは思ったものの、私とて自分の行動が酷く子どもじみたものであるという自覚くらいはある。だからこそ、明らかに違和感のある任務内容ではあったのだが、何も言い返すことが出来なかった。
「…それで、その任務にはいつ行けばいいんですか?」
「可能な限り早く。つまり今からだな」
「…今…から…?」
どうしよう。色々と…心の準備が出来ていない…。一体、どんな顔で炎柱様に会えばいいって言うの…?
私は思わず縋るように天元さんの顔をじっと見てしまった。