第7章 溢れた想いの行先は
「…どうかなさいましたか?」
アオイさんは黙り込んでしまった私をほんの少し心配げに見ている。
「…っいいえ!なんでもないんです!…あの…少しまだ傷が痛むので…それが落ち着いたら…行きますので…」
なんとも歯切れの悪い答えを私が返すも
「…わかりました。もし痛みがひどいようであれば、鎮痛薬をお持ちしますのでおっしゃってくださいね」
アオイさんは、気を遣ってくれたのか、何も追及してくることはなかった。
「ありがとうございます。それじゃあ…私も部屋に戻ります」
そうして私は逃げるように部屋に戻り、それ以降はあぁして"炎柱様が呼んでいる"と言われないためにも、最低限部屋から出るのをやめたのだった。
それから2日後。
「荒山さん。煉獄さんが部屋に来るように言っているのですが、今日も行かないつもりですか?
最後の問診を終えた胡蝶様が、そう言いながら探るように私の目を、大きな可愛らしい目でジッと見ている。
「…行きません。行ってもどうせお説教されるだけですし…私のお説教で炎柱様の血圧が上がってしまったら大変ですよね?」
なんて言うのは言い訳で、私はただ炎柱様に会うのが怖かっただけだ。
守れなかった炎柱様の剣士としての命。
炎柱様のことが"好き"と
自覚してしまった私の恋心。
どちらも私の心に大きくのし掛かり、自分でもどうしようもなかった。
…こんな気持ちで…会えるはずない…。
炎柱様はやはり重症だったようで、胡蝶様から
"1週間は部屋で絶対に安静にしていること。万が一破った時は食事の量を大量に減らします"
とお達しがあったらしく、幸運にも炎柱様の方から私の元にやってくることはなかった。
…絶対安静のくせに食事量を減らされるのが嫌って…どんな身体してるんだろう。まぁそのお陰で私としては助かったんだけど。
そんなことを考えていると
「あらあら。私は確かに伝えましたよ?後でどうなっても知りませんからね?」
胡蝶様はカルテに何か書きながら念を押すようにそう言った。