第7章 溢れた想いの行先は
「…何笑ってるわけ?俺すっごく真剣に姉ちゃんの事心配してんだけど?」
そんな私の様子に臍を曲げてしまったのか、善逸はムッとした表情をしながらそう言った。
「ごめんごめん!天元さんはね、そんな悪い人じゃないよ。…むしろ私の個性を活かしてくれるとってもいい師範なの。ちょっと意地悪な部分もあるけどね。きっと善逸にとってもいい師範になると思うんだよね」
「ふぅん…でも名前からしてその人って男でしょ?鈴音姉ちゃん、やっと男嫌い直ったの?」
「…最近は、前に比べるとかなりましになったよ。任務で男の人と接する機会が多いってこともあるし…まぁでも、天元さんは特殊かな。流石に毎日顔を合わせて、何時まで経っても苦手だの怖いだの言ってられないよ」
善逸はそう言って苦笑いを浮かべる私の様子を
じぃぃぃぃぃ
と見た後
「…じゃあ、やっぱり鈴音姉ちゃん、煉獄さんのこと好きなの?」
そう尋ねてきた。
ドクドクドクドク
再び大きな音を出し始めた胸の鼓動が、先ほどと同じく善逸に聞こえていないはずもなく
「………」
私はうつむき、ただ押し黙ることしか出来ない。そんな私の様子に
「…ごめん。こんな風に自分の気持ちを知られるなんて嫌だよね…」
善逸は悲し気にそう言った。そんな様子に私は慌てて顔をバッと上げ
「違う違う!そんなの平気だから!私が善逸に対してそんなこと思うはずないでしょ?私の音、聴こえてるならわかってるよね?」
善逸の顔を覗き込みながらそう言った。
…最初っから…善逸相手に誤魔化せるわけなかったんだ。
そう思い至った私は
「…自分の気持ちに…自分が一番驚いてるの。だって、わかるよね?炎柱様、どう考えたって私が一番苦手とする部類の人だよ?…それに何より…炎柱様を好きになるなんて…身の丈に合わないにも程があるよ…」
自分の内に秘めていた気持ちを、初めてきちんと口に出した。
好きになるだけ無駄な相手なのに。
私なんかが好きになっていい相手じゃないのに。