第1章 始まりの雷鳴
数日後。
山での走り込みを終え、私と善逸は2人一緒に家へと戻ってきた。
すると善逸が
「誰か来てるみたい」
と、まだ開いていない玄関を見ながらそう言った。
「本当?ここにお客さんが来るなんて珍しい…あ、そうか私の日輪刀が出来上がったのかも!」
日数から考えればそろそろ私の選んだ玉鋼で打った日輪刀が届いてもおかしくない。私はようやく待ちに待ったそれが手元に届いたかもしれない喜びに心が踊っていた。
けれども、その隣で、善逸が浮かない顔をしている。私はその事にすぐに気づいたのにも関わらず、わざと気づいていないふりをした。
「「ただいま戻りましたぁ」」
善逸と声をそろえて扉を開け、草履を脱ぎ、手を洗いに洗面所に向かう。山で土まみれになってしまった手を綺麗にし、ほんの少し身なりを整えると、じいちゃんとお客さんの気配がする居間へと向かった。
お客様が刀鍛冶の人だろうなとは思いつつも、
「こんにちは。いらっしゃいませ」
と挨拶をしつつ居間に入ると、
え?何?
ひょっとこのお面をつけた珍妙な人物と目が合った(目が合っていたかどうかは定かではないが)。
驚き固まる様子の私を全く気に留めることなく、そのひょっとこ男は
「はじめまして。私は鈴音さんの刀を打たせていただきました鉄穴森と申します」
珍妙な見かけに反して、なんとも物腰の柔らかく丁寧な様子に私は余計にポカンとしてしまう。
「え!?何そのひょっとこ!?誰!?何なの!?」
私より遅く居間に到着した善逸も私の斜め後ろで騒いでいる。
「ほれ!いつまでもそこで突っ立ってないで、こっちに来なさい」
じいちゃんのその言葉に
「…っはい!」
待ちに待った日輪刀がが届いたことをようやく思い出した私は、急ぎじいちゃん隣、鉄穴森さんの前に座った。
そんな私を追いかけるように、善逸も私の隣に来る。ちらりとまだ立っている善逸の顔を盗み見ると、やはり浮かない表情をしているようだった。
「ほら。善逸も座って。一緒に見てほしいの」
私がそうお願いすると
「…うん。わかってる」
善逸はいつもの騒がしい雰囲気とは異る声色でそう言った。