第1章 始まりの雷鳴
じいちゃんに1日だけお休みをもらい、私は部屋で1人今回の最終選別の事を思い出していた。
実際に鬼と対峙し改めて実感したことがある。それは、私のこの”聴ける”耳が、戦いにおいてとても有益に働くということ。場所にかなり影響されはするものの、今回のように森の中という環境下であれば、かなりの確率で鬼の発する音は拾えたし、感覚を研ぎ澄ませて気配を探ることも出来た。
だから今回善逸が、”なんか殆ど怪我してなくない?本当に選別行ってきたの?”と聞いてくるほど余計な怪我は負わずに済んだ。
けれどもその一方で、自分の弱点も再確認した。私には筋力が足りない。普通の鬼の頸であれば、難なく頸を跳ねることができた。けれども私が怪我を負わされたあの鬼は他の鬼よりも太い頸を持ち、中々頸を跳ねることが出来なかった。それがいかに致命的な弱点か今回実感した。
速さで補うしかないのか。
更にもうひとつ。新たな弱点も発見した。それは鬼と対峙しているときに聴こえる音が、極めて不快で、心労を感じるということだ。
あの血が噴き出す音とか、肉が切れる音…何とかならないかなぁ。
正直に言うと、あの音のせいで何度も気分が悪くなった。聴かないと戦いに不利になるので、聴かないようにするという選択肢は選べない。けれどもあの音を今後ずっと聴き続けなければならないのはものとても辛いものがある。
どうしようかなぁ。
そう思いながら部屋を見渡していると、ふと女将さんの形見としてもらってきた巾着袋が目に入った。そして思い出したのは、女将さんに言われたある言葉。
”嫌な客が来たら頭の中で好きな音楽でも鳴らしてみなさい。そうすればにこにこ愛想よくできるし、曲が終わるころにはその客もいなくなってるわよ”
曲のお陰か、はたまた尊敬する女将さんの言葉だったからかどちらなのかはよくわからないが、それを実践すると確かに荒んだ心が落ち着いた。
そうだ。女将さんがそんなことを言っていたじゃない。すっかり忘れてしまっていたけど…これなら、何とかなるかもしれない。
思い出すと辛いからと女将さんのことを考えるのを避けていたこともあり、すっかり忘れてしまっていた。
大好きな女将さんが教えてくれた事が、これから鬼との戦いに身を投じる自分を助けてくれる。そのことが、私は堪らなく嬉しかった。