第7章 溢れた想いの行先は
「それでは引き続きこちらの病室をお使いください」
「ありがとうございます」
胡蝶様の診察を終え、自分では特に蝶屋敷での療養は必要ないと思っていた私だったが、身体を酷使し過ぎたことで全身が痛く、強打した脚もうまく動かせなかったため2.3日は大事をとって療養するようにと言い渡されてしまったのだった。
着替えるようにと病衣を持ってきてくれたアオイさんにお礼を述べ
「あの…炎柱様は?」
扉を閉め出て行こうとするアオイさんを引きとめた私はそう尋ねた。
「炎柱様なら、1番奥の個室でお眠りになってらっしゃいます。よく眠れるお薬を、しのぶ様が処方なさいましたので、しばらくは目が覚める事はないでしょう」
「1番奥の個室…」
「廊下の突き当たりにあるお部屋です。…お顔を見に行かれますか?」
「…え?」
私に投げかけられたアオイさんのその質問に驚き、パッと顔を上げアオイさんの方を見ると、いつもと変わらない表情で私を見ていた。
「…行っても…良いんですか?」
普通に考えれば、私のような一般隊士が柱が療養している部屋に(ましてや今は薬で眠っている状態だ)入ることなんて許されないだろう。
なのに…どうして?
私のそんな疑問は筒抜けだったのだろう。アオイさんは
「しのぶ様が、もし荒山さんが炎柱様のお顔を見たいと言ったら、その個室まで案内するようにと言ってらっしゃいましたので」
そう言った。
「…胡蝶様が…?」
さっきはそんなこと、少しも言っていなかったのに。胡蝶様は一体どんなつもりでそう言ってくれたんだろう…。
考えても思い当たる節は全く見つからず、私はただぼんやりとアオイさんの顔を見てしまっていた。
「それで、どうされますか?」
先程見た悲しげな炎柱様の顔が頭に浮かび
「…お願い…します」
寝ている中部屋を訪れるのは些かどうなのだろうか、と思いはしたものの、炎柱様のそばで、炎柱様が確かに生きているということを感じたいと思った。
アオイさんはほんの少し口元を緩めると、
「では参りましょう」
そう言って、静かな廊下を進み、炎柱様の眠る病室へと私を案内してくれたのだった。