第7章 溢れた想いの行先は
「自惚れんな。お前に出来たのは精々あの程度。お前はお前のやるべき事を果たした。それを恥じる必要はない」
「…天元さん…」
天元さんのその言葉で、心にこびりついていた後悔やら罪悪感がほんの少し落ちてくれたような気がした。
「そうですよ。生きて帰ってこられる。命をかけ戦っている者として、それ以上に素晴らしいことはありません。…ところで荒山さん」
胡蝶様の声色が優しいものからほんの少し厳しさを孕んだそれに変わり、私は天元さんに向けていた視線を胡蝶様へと向けた。
「これ、見てください。このものすごい打撲」
「…っ痛」
「その短くなった隊服。意図的に破いたように見えますが違いますか?」
「…はい。自分で…破きました」
「そうですよね?私が気になるのは、なぜ自ら身体を守ってくれるはずの隊服を破り、こんな怪我に繋がったかという点です。破いたりしなければ、こんなひどい跡にはならなかったはずですよ?」
そう言いながら胡蝶様は、私の赤黒く変色してしまっている脚に薬を塗ってくれている。
「……身体を少しでも軽くして、早く動きたかったんです」
私のその答えに、胡蝶様はその綺麗な顔を若干顰めた。
「…だから上も下も破ってしまったと?」
「…はい」
「それはそれは…野生的と言いますかなんと言いますか」
「え…でも、伊之助くんなんて上半身裸ですよね。なのに顔には被り物ってどういう了見なんですかね?」
「女性でありながら自らをあの格好と比べてしまうのはどうかと思うのですが」
「え?そうですか?動きやすくてある意味羨ましいと私は思ったのですが…」
そんな私の発言に、天元さんと胡蝶様はなんとも言えない顔でお互いに目を見合わせている。
「…宇髄さん。彼女、少し女性としての意識に欠ける部分があるようなので、師範としてその辺りもきちんと指導してあげてくださいね」
「…俺はその辺よくわかんねぇから、嫁たちにたのむわ」
私はそんな胡蝶様と天元さんの会話を
そんな必要ないんだけどな
と思いながら聞いていたのだった。