第6章 生きてこの先の刻を共に
私は、誰かを好きになることが怖かった。自分も母のようになってしまうんじゃないかと、そう思っていたから。でも、今目の前に好きな人、"炎柱様"の姿を目にしたことで、その声を聴いたことで、不思議と心の底から力が湧いてくるような気がした。
…好いた相手が自分のそばいるっていうのは、こんなにも心が豊かに感じられるんだ…。
一度認めてしまえば、戻ることはできない。もう私は、自分の気持ちから目を逸らすことは出来ない。だからせめて、その気持ちを胸に秘めておくことはどうか許してほしい。
「荒山は3両目と4両目、計2両を頼む。2両目は黄色い少年と竈門妹に、先頭車両と鬼の頸は竈門少年と猪頭少年の二人に任せてきた」
「…はい。わかりました!」
目覚めてからまだ間もないのに、こんなにも早く状況を把握し、的確な指示を与えてくれる炎柱様はとても頼もしく、炎柱様がいれば絶対に大丈夫だと、こんな危機的状況にも関わらず安心感すら抱いてしまう。
「では頼んだぞ!」
「はい!炎柱様も…くれぐれもお気を付けてください!」
”気をつけて”だなんて、そんなことを言うのは失礼にあたるかもしれないと、一瞬言うのを躊躇した。けれども、どうしてもそう言わずにはいられず、炎柱様の顔をちらりと伺うように見ながらそう言ってしまう。
「うむ!ではまた!」
炎柱様はじっと私の事を数秒見た後、後方の車両へと目にも留まらぬ速さで駆けていった。
うねうねと気持ちの悪い動きをした触手が乗客を食らおうと首に、胴体に、巻き付いていく。
「雷の呼吸壱ノ型…霹靂一閃っ!」
肉塊に包まれたことが功を奏し、この状況に慣れてくると触手が発する音が段々とよく聴こえるようになってきた。基本の呼吸最速の雷の呼吸をもってすれば、車両の端から端まで光の速度で移動することが出来るため、2両であれば余裕を持って確実に触手を切り落とすことができた。
…ありがとう、じぃちゃん。じぃちゃんのお陰で、私は…炎柱様の…自分が好きだと思う人の役に立てるよ。
自分が雷の呼吸の使い手でよかったと心から思った。