第6章 生きてこの先の刻を共に
触手の動きは単調で、はっきり言って全く強くない。けれども
…数が…多すぎでしょ!
うねうねと何本も動いている触手も、私が今現在足の裏を付けているこの床も、まるで何かの口の中にでもいるような感覚でとにかく気持ちが悪かった。
…口の中…というよりもむしろ…お腹の中って表現の方が正しいのかも。
眠る乗客ににゅるりと伸びていき、今にも襲い掛かろうとしているのを何度となく防いでいくが
…私ひとりじゃ…3両が限界だ…!
自分がいる車両を真ん中として左右の車両の音を拾いながら雷の呼吸を使い、なんとか乗客を守っている状態だ。音を聴き間違え、判断を誤ればそれが乗客の死に直結する。
集中。集中して。
そうして触手と格闘していると
ぶわっ
背後から近づいてくる音と気配に一瞬気が緩んだ。
熱い火の塊のようにも感じる炎柱様が私のすぐ横を通り過ぎ、私のいる車両、そしてその隣にある最後尾の車両まで行った後、
「大丈夫か?」
「…はい!」
ふっと私の目の前に姿を現した。炎柱様が通って来たところは、かなり小刻みに切りながら移動していたのか、気持ち悪い触手はちりりと焼かれたようになっており相当ダメージを受けているように見えた。そのせいか、私が切った時とは比べ物にならないくらいその回復速度が遅く見える。
炎柱様は私と視線を合わせると、鋭くはあるが、どこか優しさを感じる目で私のそれをじっと見つめてきた。
「一人でよく堪えた」
「…ほとんどギリギリでしたけどね」
「ギリギリだろとなんだろうとそんなものは関係ない。未だ一人の犠牲者も出ていない。それが全てだ」
そう言って私の気持ちを鼓舞してくれる炎柱様に、このまま乗客全員を守り切れるか自信がないと思ってしまっていた自分は、あっという間に何処かへといなくなっていた。