第1章 始まりの雷鳴
「なにそれ?散々強くしてもらって、可愛がってもらって…認めてもらえないからもう自分の居場所じゃない?あんた…どんだけ勝手なの?」
善逸と共同とは言え、正当な跡継ぎに選ばれたくせに。じゃあ、それにすら選ばれなかった私は…なんだっていうの?
そんな言葉が、口をついて出そうになった。
「お前は俺のところに来い」
「…は?」
獪岳が言った言葉は確かに私の耳に届いてはいるが、その言葉の内容が理解できず…いや、理解したくないのか、私の脳が処理をすることを拒否しているようで、私はぽかんとその顔を見てしまう。
そんな私の様子に気が付かないのか、はたまた私の様子なんてどうでもいいのか獪岳は再びその口を開く。
「お前も後継者に選ばれなくて内心悔しいと思ってるんだろう?俺がお前をうまくつかってやる。悪い話じゃないはずだ」
やはり私には、あまりにも理解しがたいことを言われたときに、脳が処理を拒否する機能が備えつけられているのようだ。
「…ちょっと…言われてる意味が分かんない。それ、本気で言ってるの?それとも私のこと、馬鹿にして楽しんでるの?」
「はぁ?」
私のその問いに、獪岳は顔をゆがめどすの利いた声をだす。
「本気に決まってんだろう。お前の耳は役に立つ。俺と二人で鍛錬をしながら強くなれ。お前にとってそれが一番だ」
”呆れてものも言えない”という言葉は、こういうときに使う言葉なんだろう。
私は満面の笑みを浮かべ
「行くわけないでしょ。ここは私の大事な居場所。勝手なこと言わないで。あと、人を使えるとか使えないとか、そんな物差しで測るのはやめて」
精一杯の嫌味を込め、なるべく穏やかな口調でそう言った。
もうこれ以上話すことはなさそう。と言うか…また余計なことを口走ってしまう前に、もう行こう。
「それじゃあ、朝稽古があるからもう行くね。…桑島さんが悲しむから、絶対死ぬんじゃないわよ」
そう言って踵を返す私に「おい!」と、獪岳がまだ何か言おうとしていたようだが、無視を決め込み台所へと急いだ。
その後獪岳は、じいちゃん、善逸、そして私に見送られ最終選別へと向かって行った。獪岳は、手を振り、"必ず帰って来いよぉ"と叫ぶ善逸に、何も反応を返すことはなかった。