第6章 生きてこの先の刻を共に
「何してんだよ」
「…うるさいです。静かにしてください」
「っ本当に可愛くねぇやつだな!間に合わなくても知らねぇぞ!」
天元さん…なのかどうか、今となってはもう疑わしいその人物は、そう言うと、何処かへと行ってしまった。
集中して。集中。
目を瞑り、耳をすませ、辺りの音を、様子を探る。
…普段聴いてる音と似てるけど…やっぱり…何かが違う。
周りの音をよく聴けば聴くほどに、この場所自体に言いようのない違和感を感じた。
そしてふと、眠りに落ちる寸前に聞いた車掌の言葉を思いだす。
"これで…夢を…家族に会えるんだ"
確か、あの車掌は嬉しそうに顔を歪ませながらそう言っていた。
…と言うことは、ここは眠っている私が見ている…夢の世界?
そう考えると、このやけに忠実な世界にも納得がいく。この世界はおそらく血鬼術で作られた世界ではあるが、私の意識から作られたもの。そうなれば違う部分を探すことのほうが難しい。
ここが現実でないと気がついた今、私は一刻も早く、そしてなんとしてもこのふざけた世界から抜け出さなければならない。
もしかしたら今も、鬼に見張られているかもしれない。
そう思った私は、自然を装いながら居間から縁側の方に行き、深呼吸をするふりをしながら目を瞑ると、外の音に耳を傾けた。
聴こえるのは…さっきの天元さんや、家の中にいる雛鶴さん、まきをさん、須磨さんに…似せた音。…それともう一人、邸の裏の方…知らない音が聴こえる。その人が怪しいとしか思えない。そいつを捕まえて、どうすればこの世界から抜け出せるのか聞き出すしかない。
私は縁側から玄関に向かい、草履を履くと邸の外に出た。
玄関を出たその時、
「荒山!待たせたな!」
「…っ!?」
今までなんの音も、気配も感じなかった筈の炎柱様が急にあらわれた。驚きを隠しながらゆっくりとそちらに顔を向けると、着流姿の炎柱様の姿がそこにはあった。
「……」
普段は見ない炎柱様のその出立ちに、一瞬見惚れてしまう。