第6章 生きてこの先の刻を共に
正面に善逸と猪頭君…改め伊之助君が並んで座っており、私はその向かいに座った。
「善逸の耳には何か変わった音って聴こえる?」
「変わった音?ここ列車の音が凄くてなかなか人の話し声とか他の音は聞こえにくいかなぁ」
「…やっぱりそうだよね」
善逸がわからないのであれば、到底私がわかるはずもないか。
車両の真ん中辺りから乗車し、この車両に着くまでの間、神経を研ぎ澄まし音を聴いて来たが、はっきりしたことはわからなかった。
「なんだぁ?お前も耳よし丸と同じで耳がよく聴こえんのか?」
え?耳よし丸?…耳よし丸って…何?
そうは思ったものの、この状況から考えると耳よし丸とは善逸の事を指し示すとしか考えられない。
「…伊之助君…面白い感性の持ち主だね」
「あぁん!?どういう意味だ!?俺様をバカにしてんのか!?」
「おい馬鹿!ナオ姉ちゃんに絡むな!」
「うるせぇ黙れ!」
そんなやりとりを面白いなと、そして、文句を言いつつも生き生きとした善逸の様子に何やら安心感のようなものを感じた。
…いい仲間に…会えたんだね。
そして、揉み合い押し合いながら文句を言い合う2人を見ながら
"須磨ぁ!あんたまた馬鹿なことしてぇ!"
"あぁ!天元様ぁ!まきをさんが私のこと馬鹿って言いましたぁ!"
なんだかまきをさんと須磨さんを見ているみたい。
そんなこと考えていた。
出来ることなら、善逸ともっとゆっくり私がじぃちゃんの家を出てからのこと、最終選別のこと、そして今までどうしていたのかを話したかった。
けれども今は任務中だ。
…それは、終わってからの楽しみにしよう。
ゆっくりと一度瞬きをし、気持ちを切り替えた私は、耳に神経を集中し、何か違和感がないか目を瞑り神経を張り巡らせた。
…取り敢えずこの車両は問題なさそう。隣の車両は…行って気配を探るしかないか。……それにしても、この車両の中に少し変な気配を感じるんだよなぁ。…人とは違う。でも…嫌な感じはしないし…害はなさそう……なんなんだろう?
そう疑問に思いながらも
「ちょっと、隣の車両に行ってくるね」
そう言いながら、隣の車両に向かうべく席から立ち上がった。