第5章 名前の知らない感情は
「コイツらがこんだけ手間と時間掛けたんだ。つぅわけで必ず!そしてド派手に、任務を成功させて来やがれ!」
そう言いながら天元さんは雛鶴さんの身体ををグイッと引き寄せた。
そのまま天元さんは後ろから雛鶴さんを抱き込み、その両腕にまきをさんと須磨さんが寄り添うようにくっついた。
「怪我しないようにね…とは言えないけど、必ず無事に戻って来てね」
「戻ったら炎柱様とのこと、報告するの忘れるんじゃないよ」
「また離れで一夜を共にしましょうね!」
3人の奥さんたちと寄り添いながら私のことをじっと見据える天元さんの姿に。ニッコリと優しい笑みを浮かべてくれる雛鶴さんまきをさん須磨さんの姿に。
「…天元さん…雛鶴さん…まきをさん…須磨さん」
この人達の側に置いてもらえて良かった。
心からそう思った。
「…っはい!音柱の継子として恥ずかしくないよう、ド派手に任務を成功させてきます!」
互いを愛し敬う感情。
仲間の身、家族の身を憂い案じる感情。
会えない家族を思い哀しむ感情。
お館様に導かれ
今まで知らなかった感情を
私はたくさん知ることができた。
でも一つだけまだ名前のつけられない
つけたくない感情が残っている。
私にはまだ
それに名前をつける勇気と
きっかけが足りない。
お願いもう少し。
もう少しだけ
知らないふりをさせて。
だって知ってしまったら
もう戻ることは出来ないでしょう?
✳︎-第5章-完-✳︎