第1章 始まりの雷鳴
「今日はまだ…気持ちの整理がつきそうになくて無理だけど、明日獪岳が出発する前に、必ず話をします」
私がそう言うと、桑島さんは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「すまんな。ほれ、いつまでもそんな姿勢でいたら、腰を痛める。布団を敷いてやるから、そっちできちんと寝なさい」
「…っえ!?いいです!自分でやりますから!」
そう断る私を押しのけ、桑島さんは私の為にお布団を敷いてくれようと、布団がしまってる押し入れへと向かってく。
無理矢理頼みこんで弟子にしてもらったのに…こんなにも大切にしてもらえるなんて。
胸の奥がポカポカと温かくなっていくようだった。
「桑島さん」
いそいそと私のために布団を敷く桑島さんの背中に、私は声を掛ける。
「なんじゃ」
「…私も、善逸みたいに…じいちゃんって呼んだら…駄目ですか?」
ずっと、善逸が桑島さんを"じいちゃん"と呼ぶのを羨ましいと思っていた。けれども実際にそうしたいとお願いすると、なんとも言えない羞恥心がブワッと私の胸を駆け上がった。
「っやっぱり何でもありません!さっきのは、忘れてください!」
羞恥心に耐えきれず、私は桑島さんが返事をよこす前に、自分でそれを取り消す。
けれども
「いくらでも、好きに呼びなさい」
桑島さんの、しわがれた優しい声で紡がれたその言葉にパッと顔をあげ、桑島さんのほうを見ると、頬をほのかに赤く染め、恥ずかしそうな顔でこちらを見ていた。
私はそれが堪らなく嬉しくて、
「ありがとう!じいちゃん!」
桑島さん改め、じいちゃんに抱き着きながらそう言った。
翌朝。
朝目が覚め、身なりを整え、朝食の準備に取り掛かる。そして、私は朝食を作るのと一緒に、獪岳に渡すおにぎりを握っていた。
4つの大きなおにぎりとお漬物も一緒に竹の皮で包み、完成したそれを棚に置く。
そして、神経を集中させ”聴く耳”に切り替える。
衣擦れの音が聴こえる…ということは、もう起きて着替えているところかな。
私は先ほど握ったおにぎりと、竹筒に入れたお茶を持ち、獪岳が使っている部屋へと向かった。