第1章 始まりの雷鳴
「鈴音、入るぞ」
そう言ってスッと静かに襖を開け、私に近寄ってきたのは桑島さんだった。私はゆっくりと顔を上げ、桑島さんが何かを言う前に
「ごめんなさい。せっかく桑島さんが獪岳の為に色々準備してくれていたのに…私が…ぶち壊してしまった…」
私は謝罪の言葉を述べた。そんな私に、桑島さんは
「謝る必要はない。わしの配慮が足らんかったんだ。もっと早くなんとかしてやるべきじゃったのに、鈴音に余計なことを言わせることになってしまった」
申し訳なさそうな声でそう言った。
「…っ違います!全部!全部私が…っ」
引っ込んだはずの涙が、話をしている間にまたジワリと溢れてきそうになる。
「そんな事を言うもんじゃない。じゃがもし…可能であれば、明日、あやつが最終選別に出る前に…もう一度、話してやってはくれないか?考えたくはないがあのままもし万が一…ということでもあれば、お前さんには後悔の気持ちばかりが残ってしまうじゃろう」
桑島さんは、とても真剣な顔つきでそう言った。
桑島さんにこんな顔をさせてしまうなんて…
私はなんて愚かなんだろう。
「…はい」
「すまんなぁ。あんな奴じゃが…獪岳も、わしにとっては大事な弟子の1人なんじゃ」
「わかっています。獪岳は…私よりも遥かに雷の呼吸の使い手としての才能があります。善逸と共同で雷の呼吸の後継者にするのには…正しい判断だと私も思います…」
私には、その才能はなかった。
ほんの数日前、
"善逸と獪岳の2人を共同で雷の呼吸の後継者としようと思っている"
と、桑島さんは1番に私に話をしてくれた。きっと、その器が無い私のことを配慮しての行動だったのだと思う。
結局私は、ここでも必要な存在になれなかった
その話を聞いた時、一瞬そんな言葉が頭をよぎった。けれども桑島さんはそんな私に
"鈴音、お前には雷の呼吸ではない、他の才能を感じる。それが何かはわしにもわからんが…お前は、雷の呼吸に拘らず、自分の道を見つけ出すことができるはずじゃ"
桑島さんはそう言ってくれた。
自分のことを信じるのは難しい。けれども私は、桑島さんのその言葉なら信じることができると思った。