第5章 名前の知らない感情は
「…私もきっと、天元さんと一緒であんな風には生きられないと思います」
「心配すんな。あんな生き方出来んのはあいつ位しかいねぇよ。…っていうか、周りがみんながあんなクソ真面目だったら窮屈でしょうがねぇわ」
周りが炎柱様だらけの様子でも想像したのか、天元さんは眉間に皺を寄せとても嫌そうな顔をしている。けれどもスッと真面目な表情に戻り、私の顔をじっと見てくる。
「だがな、俺はあいつの事をすこぶる気に入ってる。だから頼む。あいつを…絶対に死なせるな。どんな形であれ、生きてる奴が勝ちだ。死んじまったら何も残りゃしねえんだよ。だからお前が、あいつの安全装置になれ。死にそうなくらい無茶してたら…頭引っ叩いて、目、覚ましてやってくれや」
強い意志のこもったその言葉は、いつも私を揶揄うふざけた様子は一切感じられず、真剣そのものだった。
「本当なら俺がお前の代わりに行きてぇところだが、俺には俺の任務がある。他の柱たちも同じだ。俺よりはるかに弱いお前にこんな事は言いたくねぇ。だが今回の任務、十二鬼月、最悪上弦の仕業かもしれねぇって話だ。だからお前が、煉獄の力になれ」
「…でも…天元さん知ってるでしょう?私、そこまで強くありません。私が出来るのは…補助的役割ばかりで…相手が上弦だとしたら…私が…炎柱様の助けになることなんて…出来るんでしょうか…?」
炎柱様の助けになりたい。心からそう思う。でも、自信がない。私は力が弱くて、取り柄といえばこの音を聴き分ける能力と、気配を探ること。そしてそれを頼りに相手の隙をついて攻撃を仕掛けるくらいだ。響の呼吸だって、探査に使うことは多くても、実践で、ましてや上弦相手に役に立つような代物とは思えない。
…そんな自信…ないよ。
そう思いながら手に持った自分の日輪刀をジッと眺める私に
「お前は何にもわかってねぇなぁ」
天元さんは呆れた声で言った。
"わかっていない"
一体私が何をわかっていないと言うのか。
日輪刀を見つめていた視線を上げ、代わりに天元さんの顔をじっと見る。
「俺たちが、何のためにお前に散々"剣以外のこと"を教えてきたと思う」