第5章 名前の知らない感情は
「そうだなぁ…鬼殺に関してとにかく真面目だ。俺からすれば危うい程に」
眉間に皺を寄せながらそう言った。
「危うい…ですか?」
私は何故、天元さんがそんな風に言うのか理解できなかった。意志の強そうな、そしてそれに負けないくらい屈強そうな身体をもつ炎柱様の、どこが危ういと言うのか。
「まぁとりあえず、こっち来て一旦座れ」
そう言って天元さんは、天元さんが座っている座卓の正面辺りを、手のひらでバシバシと叩いた。
「…はい」
その言葉に従い、帰ってきたばかりでまだ勝手口の隣にいた私は、天元さんが座るように言った場所まで移動する。
自分の指示通りに私が座るのを確認した天元さんは、座卓に頬杖をつきながら徐に話し始めた。
「あいつが産まれた煉獄家は誰もが知る代々炎柱を排出する名家。周りからの期待も高ければ、自分自身に課すものも高い。おまけに今や飲んだくれの父親と、歳の離れた弟を支える一家の大黒柱だ」
「…っ!?待ってください!…なんですかその…飲んだくれの父親だとか…一家の大黒柱だとか…?」
天元さんから発せられた衝撃的とも言えるその言葉たちに、私は驚き戸惑った。
「言葉の通りだ。お前、あいつの母親が死んじまってることは聞いてるか?」
「…はい。この間、本人から聞きました」
「あいつの親父さんはな、昔は煉獄と同じくらい…いや、今の煉獄以上に志の強い、いい隊士だった。だが、大事にしていた嫁を病で亡くしたことで…まぁ他にも俺の知らないなんらかの理由があったのかもしれねぇが、それからおかしくなっちまった。辛さを誤魔化すように酒に逃げて、ついには酒に酔いながら見回りにも出るようになった」
天元さんは、座卓をじっと見つめ、淡々とした口調で話を続けていく。