第5章 名前の知らない感情は
それからしばらく炎柱様と任務をともにする機会はなく、道でばったりと会えるなんて偶然もなく、懐に忍ばせた風呂敷を渡せる機会が訪れることはなかった。
今日も渡せなかった。
明日は渡せるだろうか。
明後日はどうだろうか。
気がつくと、そんな風に毎日炎柱様と会えるかどうかばかりを気にするようになっていた。
そんな自分が嫌になり、"文を添えて和に持って行ってもらおう"と思い始めたその翌日のことだった。
「荒山、お前に、お館様より特別任務だ」
合同任務から戻ってきた私に、天元さんの口からから、3度目の特別任務が言い渡された。
「…また、炎柱様と一緒ですよね?今回は、どんな任務なんです?」
今までの流れからして、なんとなく今回も炎柱様と一緒なんじゃないかと思い私がそう尋ねると
「なんだぁ?今回は随分と察しだけじゃなく聞き分けも良いじゃねぇか。さては煉獄となんかあったか?」
ニヤニヤと私を見ながら笑う天元さんを目を細め、じーっと睨みつけるように見返した。
「そんなんじゃありません。…ただ、風呂敷をお返しする機会がやっと来たと…思っただけです」
その言葉に天元さんは珍しくキョトンとした表情を見せた。
「風呂敷ってなんだよ。やっぱりこの間の任務で煉獄と何かあったのかよ?」
「…あったと言えばそうですし…なかったと言えば…そうですし…」
「あぁん!?なんだそのはっきりしない地味な答えは!」
天元さんは苛立った様子を少しも隠すことなく私にそう言った。
そして私もまた、天元さんと同じように私自身の如何ともし難い感情に苛立ちを感じていた。
…また炎柱様と一緒に任務に当たるのであれば、その前に自分の感情をもう少し整理しておきたい。
そう思った私は、揶揄われてしまうのを覚悟しながら天元さんに
「…天元さんは、前に炎柱様の事を"馬鹿正直でいいやつ"と言っていましたが…天元さんから見た炎柱様は他にどんな印象がありますか?」
そう尋ねた。
「煉獄の印象だぁ?」
私のその問いに天元さんは顎に手を当て考えるそぶりを見せる。