第5章 名前の知らない感情は
「お買い物?よかったら私も手伝おうか?」
私がそう声を掛けるも
「そんな!今日会ったばかりの方に、そこまでご迷惑をかけられません!ただ酒屋に行くように言いつけられただけなので大丈夫です!」
そう言って断られてしまう。
まぁでも、初対面の相手に買い物を手伝ってもらおうなんて人の方が珍しいよね。私が鬼殺隊士だとは思ってないみたいだし。
そんなことを考えながら
「わかった。でも酒屋さんでしょ?また酔っ払いに絡まれたりしないように気を付けてね?」
私が千寿郎君の目をじっと覗き込むようにしながらそう言うと
「もちろんです!普段は酔っぱらっている人がいても、あんなふうに絡まれてしまう事なんてありません。でも今回はあの人が猫を虐めているように見えたのでつい…」
照れ笑いをするようなその表情に
…っかわいい!
私の心はすっかりと鷲掴みにされ自然と口角が上がってしまう。そして、そんな千寿郎さんの姿をかわいいと思うと同時に
この子もきっと、強くて優しい心も持ち主なんだな
とそう思うのだった。
ばれないようにこっそりと千寿郎君が無事に酒屋に入るのを見送り、私は駒澤村を出て、自分の住まいである音柱邸へと向かった。
聴こえてくる音に耳を澄ませながら、先ほどの思いがけない炎柱様の弟さん、千寿郎君との出来事を思い返していて私はふと気が付いた。
「…風呂敷…千寿郎君に渡しちゃえば良かった…」
そんな考えが頭に浮かんできた。けれども、いくら代わりのものを購入したとはいえ、炎柱様の持ち物を駄目にしてしまった事実がなくなるわけではないし、謝ることも出来ていない。
こういうものは、自分の手で、自分の口で誠心誠意謝って渡さないとだよね。
立ち止まり、購入した風呂敷が入った袋をじっと見ながら
受け取ってくれると良いな。
そんな風に思う気持ちと
気にいてくれると……良いな。
そんな期待に似た気持ちを抱いてしまっていた。そして、
もしかしたら私…色々と理由をつけて…炎柱様に会いたいだけなのかな?
そんな考えが頭をよぎる。
フラフラと左右に頸を振り
「…そんなんじゃ…ないもん…」
誰にいうでもなくそう呟いた私は、音柱邸へと向かう足を速めた。