第5章 名前の知らない感情は
じーっと見つめてくる私の視線に居心地の悪さを感じたのか
「…あの…?」
下がりがちな眉の端をさらに下げ、炎柱様の弟さんと思われる男の子がじっと私を見てくる。
「…あ、ごめんねつい。あの…あなた、もしかしてお兄さんがいたりしないかな?」
私がそう尋ねると
「…?…はい。確かに僕には、兄がいます…ですが何故あなたがそれをご存知なのでしょうか?兄上とお知り合いですか?」
炎柱様の弟さんは、首を傾げながら私にそう尋ねてきた。
「あ…え…私?私は…えっと…その…ちょっとした…知り合いっていうのかな…?」
素直に自分が鬼殺隊士であり、炎柱様と共に任務に当たったことがあると言えばいいのに、何故か私はそれが言えなかった。
「そうなんですね!」
弟さんはそう言って嬉しそうに笑った。けれどもその後、視線を下に落とし、何かを思案するようにしばらく動作を止めた。そして再び視線を上げ私の目をじっと見てくる。
…どうかしたのかな?
私がそう心配に思っていると
「あの…僕は、煉獄千寿郎と言います」
「あ、私は荒山鈴音です」
名を名乗られ、そう言えば自分も名乗っていなかったことを思い出し、慌てて私も自分の名を名乗った。
炎柱様の弟様、もとい千寿郎君はほんの少し聞き難そうな表情をしながら
「鈴音さん、ですね。鈴音さんは…最近…兄上にお会いになりましたか?」
「……お兄さんに?」
私にそう尋ねてきた。
何故わざわざ、今日出会ったばかりの私にそんなことを聞くのかが分からず、私はすぐに答えることが出来なかった。
「…はい…あの……兄上は最近忙しいのか…あまりこちらに帰ってくる暇がないようで…しばらく、会えていないんです」
千寿郎君はそう言って、悲しげに笑っていた。その笑顔が、酷く切ない表情に見え、私の胸はギュッと締め付けられるようだった。
「…うん!少し前に、用があって会ったよ」
私のその言葉に千寿郎君は嬉しそうに目を輝かせ
「本当ですか!?兄は…兄は、元気でやっているでしょうか!?」
興奮気味にそう尋ねてきた。