第5章 名前の知らない感情は
「っ…お前に何が関係あんだよっ…さっさとその手を…離せっ!」
「離してもいいですけど、まずはこの子とこの猫ちゃんに謝ってもらってもいいですか?それが済んだら、私もこの手を離しますし、手荒なまねをした事ついて謝ります」
ニッコリと笑みを浮かべそういう私に
「はぁ!?なんでこの俺が謝らねぇと…っいでででで!!」
自分が悪いと微塵も思っていない様子の男に余計に腹が立ち、私は掴んでいる男の腕をさらに強く捻り上げた。
最初に見たときは酔っぱらって赤かった男の顔も、今では痛みからかすっかり青くなってしまっており
「……す…すみませんでした…」
小さな声でそう言ったのが聞こえた。
「あ、私に謝る必要はないので。謝るならこの男の子と、猫ちゃんにお願いします」
そう言って私が漸く男の腕から手を離すと
「すみませんでしたぁ!!!」
そう大声で謝罪した後、一目散に何処かへと走り去って行った。
そんな私たちのやり取りに
パチパチパチパチ
いつの間にか集まってしまっていた観衆が拍手をし
”よっ!姉ちゃん強えな!”
よくわからない囃し立てるような声まで聞こえてくる。
…やだっ!こんなに注目されて…恥ずかしい!
かぁぁぁあ
っと首から上が急激に熱くなり
「…っ行こう!」
「っえ!?あの!?」
戸惑う男の子の背中をグイグイ押して、私は人気の少ない路地の方へとそそくさと逃げ込んだ。
観衆から距離をとり、周りが静かになったことで落ち着きを取り戻した私は、歩いてきた道を振り返り
「…やりすぎちゃったなぁ…」
思わずそんなことを呟いてしまう。
「いいえ!そんなことはありません!」
そんな私に、男の子は見た目よりも少し低いなと感じる声でそう言った。
振り返り、男の子の姿を改めて見る。
他には見たこともないような派手な髪色。
吊り上がってはいないが特徴的な形をした眉。
炎が燃えてるような瞳の色。
この子、どう考えても炎柱様の血縁者だよね…?弟さん…かな?
雰囲気は違うものの、あまりにも瓜二つなその容姿に、私は目を奪われてしまう。