第1章 始まりの雷鳴
「…っふざけんじゃないわよ。なんなの?才能があれば、強ければ、何言っても許されると思ってるわけ?善逸があんたになにしたったいうの?あんたも…あいつも…強いんだったら自分よりも弱い人を守ろうと思いなさいよっ!」
気づくと私は、獪岳を思いっきり睨みつけ、泣きながらそう言っていた。そんな私の顔を、獪岳が目を見開き驚きを隠しきれない表情でぽかんと見ている。
けれども、ニヤリと怪しい笑みを浮かべ
「そういうことか」
と独り言のように言った。
「従順でつまらないやつだと思ってたが、腹ん中ではそう思ってたわけだ」
そう言って、私の腕をぐっと掴み、顔を近づけられ至近距離で睨みつけられる。
ここで目を逸らしたら負けだ。
そう思った私も、一切視線を逸らすことなく獪岳を睨み返す。
「やめろ獪岳!放せ!」
善逸も珍しく、声を荒げ私の腕を掴む獪岳の手をぐっと掴んだ。
その時、
「やめんかお前ら!今すぐ全員離れろ!」
「「「…っ」」」
耳をつんざくような、怒鳴り声に思わず目をつぶり、私は空いているほうの手でとっさに片耳を塞いだ。
「…一体どうしたんじゃ?」
騒ぎ声を聞きつけたのだろう。ようやく見つけたと思われる手拭いを片手に、桑島さんが開きっぱなしにしていた襖の前に立っていた。
「…っごめんなさい」
桑島さんの怒鳴り声で驚き、緩まっていた獪岳の手を自ら振りほどき、私は逃げるように自分の部屋へと走った。
部屋に逃げ込んだ私は、部屋の隅に置いている座卓に突っ伏す。
ずっと隠してきたのに、我慢してきたのに、最後の最後で爆発してしまった。獪岳が悪くないとは思わない。獪岳の善逸への態度は明らかに酷いものだったし、あの発言もどう考えても許すことは出来ない。でも、あの時、獪岳に向けた怒りの気持ちは、純粋に獪岳に向けられたものではなかった。
私は獪岳の向こうに、"父親の姿"を見ていた。
それは完全に私の問題で、獪岳の問題ではない。いくら苦手で、最近は嫌いとすら思っていた相手でも、自分の事情を押し付けて、それをぶつけることは間違っている。ましてや明日、獪岳は最終選別に赴き、命を落とす可能性だってある。
本来であれば、同門として、温かい言葉で送り出してあげるべきなのに。
そんなことすらも満足にできない自分が嫌いだ。