第5章 名前の知らない感情は
水気を取り、物干しざおに干してしまえば、私が丁寧に手洗いした風呂敷は、あという間に乾いてしまった。
「…やだやだ!っどうしよう!」
乾いた風呂敷は、洗う前よりも一回り程小さくなっていた。
上等な風呂敷は下手に洗うと縮んじゃうって女将さんに言われたことがあったのに…!
呼吸の長時間使用やら炎柱様への自分の心の変化に対する葛藤やら、様々な要因で疲れていた私は、そのことをすっかりと忘れてしまっていた。
色落ち等はしていないものの、小さくなってしまった炎柱様の風呂敷を手に持ちながら呆然と立ち尽くす私に
「ただいま鈴音」
「あんた戻って来てたんだね」
「お帰りなさい鈴音ちゃん!そしてただいま戻りましたぁ!」
女神が3人現れた。
「雛鶴さんまきをさん須磨さん!…っなんて良いところに!」
風呂敷を手に、たくさんの荷物を抱えた3人に駆け寄ると
「なにがあったか良くわからないけど、まずはこれを片付けてからね」
雛鶴さんが苦笑いを浮かべながらそう言った。
「手伝います!喜んで手伝いますので…助けてください!」
「あんた、炎柱様と任務だったんでしょ?何かあったわけ?」
「そうですそうです!その辺詳しく教えてくださいよぉ!」
わちゃわちゃと騒ぎながら雛鶴さん、まきをさん、須磨さん、そして私の順番で玄関に入り、そのまま廊下を進み食材をしまいに向かった。
「残念だけど、こうなってしまったらもう元には戻らないわ」
「…やっぱり…そうですよね…」
座卓の真ん中に広げた風呂敷を4人で囲み、雛鶴さんから無情にも告げられたのがその言葉だ。
「随分と上等な風呂敷だね。こんなのどうしたんだい?」
「…色々あって……炎柱様におかりしました」
私のその言葉に、6つの目が一斉に風呂敷から私へと向けられた。