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音の溢れる世界でいつか【煉獄さん】【鬼滅の刃】

第5章 名前の知らない感情は


「あのねぇ、鈴音、転がったと思ったらすぐに寝ちゃったみたいなの。そのあとすぐに、炎柱様が何か忘れたことがあったみたいで戻ってきたのぉ」


噓でしょ?


「起こそうとしてくれたみたいなんだけど、凄く疲れてるみたいだから少し寝かせてやろうって」


噓でしょ?嘘でしょ?


「自分が居てやりたいところだけど、行かなくちゃならないから、君が見ててやるようにって。半刻経ったら起こしてやるようにってそういわれたのぉ。炎柱様、とってもいい人ねぇ!」


嘘でしょ嘘でしょ噓でしょ!?!?!?


信じがたいその事実に、私が顔を手で覆いながら羞恥に震えていると


「あんな人なら鈴音も安心して側にいられるねぇ」


「…っ!」


和が私に最後の止めをさしてきた。


だめ。絶対にだめ。違う。
違うもん。そんなんじゃない。


膨れてしまいそうな気持と、甘いような苦しいような胸の鼓動は、どうしても私に一つの結論を導き出させようとしてくる。けれども、私は、どうしてもそれを認めることは出来ないし、認めるわけにはいかない。

そう思ってはいるのに、私の心はどうにもいうことを聞いてくれない。


そうだ。こういう時は…あの時のことを思い出せば良いんだ。


そう思い、普段は思い出したくもないと思っているはずの嫌な記憶を、自ら紐を引っ張るように手繰り寄せる。

母を蔑むような父の視線。
母の最期の姿。
父と継母が交わしていたあの日の会話。
家を追い出されたあの日。

それらを思い出すと、スゥーっと心が冷えていった。

よし。これで大丈夫。

我ながら、なんて馬鹿なことをしているんだろうと思いながらも、どうしても目をそらしたくなってしまう気持ちを鎮めるにはこの方法しか思いつかなかった。


「ほら。そんなありもしない事言ってないで、帰ろう」


そう言いながら立ち上がり、隊服の汚れをパタパタと手で落とす。


「えぇぇ!ありもしないなんてこと無いのぉ!和にはわかるのぉ!」


バサバサと羽を羽ばたかせる和をあしらいながら、炎柱様が置いていった風呂敷を丁寧に畳んでいく。

その風呂敷はおにぎりを包むのに使ったり、河原で居眠りをしている人間のお腹に掛けるのにはあまりにも上等なものに見えた。



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