第5章 名前の知らない感情は
三角座りをしていた足を延ばし草の上にゴロンと寝ころぶと、視界に映り込むのは、青く綺麗な空と、白い雲。
「…綺麗だな」
視界に映っているのは、確かに空だけなのに
”荒山”
思い出してしまうのは、今日何度となく私へと向けられたあの太陽のように明るくて、暖かい炎柱様の笑顔。
私…もしかして…
その先を考えるのがどうしよもなく怖くなり
「…寝よう」
私は、心安らぐ音たちと、炎柱様と一緒に食べたおにぎりの満腹感に身を任せ、色んな意味で疲れを感じてしまった神経を休ませようと目を瞑り、なるべく余計な音を拾わないように川のせせらぎの音だけに耳を澄ませた。
…ん…髪…ひっぱられて…る?
グイグイと髪を引っ張られるような感覚に、いつの間にか眠りの世界に落ちしまっていた意識が浮上してくる。
「鈴音鈴音起きてぇ…そろそろ帰ろうよぉ。こんな場所でいつまでも寝てたらだめなのぉ」
和の声ですっかりと意識が覚醒した私は、右手を支えに寝ころんでいた状態から起き上がった。
「…ん…ごめんね。私、いつの間に寝ちゃってたんだね」
こんなところで寝てしまうとは自分でも驚いた。けれども、今日は任務の間中ほとんど”聴く耳”の方を使っていたし、響の呼吸の参ノ型を使っている時間も今までで一番長かった。身体の方は疲れていなくとも、神経の方は相当疲れを感じていたに違いない。
完全に身体を起こしたその時
パサリ
お腹の辺りから何かが滑り落ちたのを感じた。
何だろう?
そう思いながらそれが落ちた所に手を伸ばし、拾い上げると
…これは…炎柱様が持っていた風呂敷?
その正体は先ほど炎柱様がおにぎりを包むのに使用していた風呂敷だった。
「…どうして…これがここに…?」
思わずそう独り言を言ってしまう。けれども、独り言だったはずのその言葉に意外にも返事が返って来た。
「それねぇ、炎柱様が掛けてくれたのぉ!」
けれどもその返事の内容が、私にはどうにも理解しがたく
「…え…?…何?…なんて…?」
思わず和にそう聞き返してしまう。