第1章 始まりの雷鳴
そのことが、獪岳は気に入らなかったのだろう。私のことなんて気にも留めていなかったくせに、私と善逸の距離が縮まった途端、獪岳の善逸への態度はより酷いものとなった。
もちろん桑島さんもそのことには気が付いており、自分が間を取り持とうかと言ってくれていた。でもそんなことをしたら、”こいつの肩ばかり持ちやがって”と火に油を注ぐことが目に見えていたので私が止めた。
そんなことを言ったのは私なのに、火に油を注いだのは、他でもない私自身だった。
壱ノ型以外を除いた5つの型を習得した獪岳は、桑島さんのお墨付きを得て、明日最終戦別へと向かう。今晩はその激励の意味を込め、普段よりも豪華な夕餉を準備し、4人で食卓を囲んだ。
決して明るい雰囲気とは言えなかったが、桑島さんと善逸は楽し気に会話をしていたし、私もそこに加わったりもしていた。
事は、私が桑島さんとともに獪岳に持たせる刀と羽織、それから手拭いを取りに行っている時に起こった。
桑島さんから箪笥にしまっていたはずの手拭いが見つからないから先に戻るようにと言われ、私は一人居間へと戻っていた。居間を出る時も、善逸がまた獪岳に何か酷いことをいわれるんじゃないかと、二人きりにするのはもの凄く心配だった。
だから私は、聴かないほうが良いとわかっていたはずなのに、居間に向かいながら、そちらに意識を集中し、聴いてしまったんだ。
「お前みたいに才能の欠片もないやつ、すぐに死ぬだろうがな。むしろそのほうがお前にとっても幸せなんじゃないか?」
その言葉の意味を理解した瞬間
ブチっ
頭の中で、何かが切れるようなそんな音がした。
私は今へと向かう脚を早め、
バンッ
と自分がすごく苦手とする大きな音を立てて襖を思いきり開いた。
そこには、なんでもないような涼しい顔をした獪岳と、慌てた表情を浮かべながら今にもこちらに走ってきそうな善逸表情が見えた。
「姉ちゃん!いいよ!大丈夫だから!」
そう言って近寄ってくる善逸を振り切り、私は獪岳の目の前で止まる。
「…なんだ?」
獪岳が私を下から睨みつける。