第5章 名前の知らない感情は
「…その件に関しては、失礼な態度を取ってしまいすみませんでした」
そう言いながら頭を下げた。
「謝ってもらいたくて言ったわけではない。頭を上げるといい」
そう言われ、恐る恐る頭を上げた私は炎柱様の表情をちらりと確認する。その表情は早速見慣れてしまったいつもの表情で、確かに怒っているようには見えない。けれども、例え炎柱様が怒っていなかったとしても、私としてはきちんと炎柱様に謝らなければ気が済まない。
まだ半分ほど残っているおにぎりを、形が変わってしまうほど強く握りしめ
「…っあの、前回お話しさせてもらった通り、私は音に敏感で、体格の良い男性が苦手です。炎柱様は私のその苦手とする条件にピッタリと合致していたので…。だから、当然のように炎柱様に対しても苦手意識を感じて…失礼な態度を取ってしまいました。私の変に凝り固まった色眼鏡で炎柱様を見てしまい……本当に、本当にすみませんでした」
自分が思っているすべての気持ちが伝わるように、炎柱様に言葉を述べた。
「いや。もう済んだこと。謝る必要はない」
炎柱様はそう言って、私の右肩にポンと手を置いた。その行為も、もう嫌だと感じることは一切なかった。
「さて!次は俺が君に聞く番だ!」
そう言って私をじっと見る炎柱様から、何を聞かれるのかはなんとなくわかっていた。
「荒山が体格のいい男性に苦手意識を感じるのは何故だ?」
前回も聞かれたそれ。炎柱様からの質問内容は、予想した通りのものだった。
私はごくりと一度唾を飲み込み
「…父親を…思い出すからです」
ボソリと呟くようにそう言った。
「荒山のお父上をか?それが何故苦手意識に繋がるんだ?」
「あ。ダメですよ!それじゃあ質問が2つです」
続け様にきた2つ目の質問に、私はそう言って答えるのを拒んだ。けれども炎柱様は
「だが君は俺に3つ質問しただろう?ならば俺もあと2つ質問できるはず」
「え?」
そう自信たっぷりな表情で言った。